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綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~  作者: 鯣 肴
瞳の蒐集と探求篇

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第五十七話 英雄譚の残滓 顎と牙の蟲の頂 十七

「俺のことは、マスター、とでも呼んでくれ。このギルドの酒場を仕切ってることからそう呼ばれるようになった。 ? それなりに長い話になるのだろう?」


 随分とのんびりした様子であることに、鳩が豆鉄砲を食らったように目をぱちぱちさせるつぶてをよそに、簡易な木の丸椅子を二脚呼び出し、そのうちの一つを、つぶての後ろに置いた。


「あんた、落ち付き過ぎていやしないか?」


 予想外の落ち着きように、つぶては思わず尋ねる。


「あぁ。外の心配はする必要はない。あんたらがここに入ってきたということは、足止めの一つや二つ、それも確度の高いのを仕掛けた後だろう? そうじゃなきゃ、あの傲慢な長官殿の専属に選ばれる程の信任を得られる訳がない」


 と、マスターは落ち着きの根拠を示した。


「成程。ここでの生活はそれなりに長い、ということか。別部門からの転向か?」


「まあそんなところだ。俺がここに転属になったのは、こういった事態に備えてだ。だからこそ、俺以外のギルド人員は皆、出払っているという状態になっている。それと、あんたが気づいていない大きな見落としが一つある。あんたの話を聞き終えた後、俺はそれを明かそうと思う。あんたが今そうやってぼんやり浮かべている違和感の説明にもなるかと思う」


「随分意味深な……。まあ、いいだろう。マスター。俺たちが抱いた懸念は二点。奴の能力の幅。そして、奴の狙い」


 つぶてがそう言うと、マスターの顔が更に険しくなった。


「奴の狙いに宛てがあるということか。能力についてなら、後回しにした理由が無い。……。あぁ、話を勧めろと? まあいい。奴、【鬼呪蜻蜓キジュヤンマ】についてだが、人間への擬態能力なんて、記録にあったか? 魔力の色すら再現した見分けのつかない変身。その上、こちらの一挙手一挙動を、全く同時に再現してきた」


「想像しにくいな……」


「奴は巻き添え型の転移魔法を使えるようだ。それも、消耗はあまり激しくないか、全体魔力量における消費量の割合で見たら低いかのどちらか、両方。何処かも分からない、恐らく地下の大きく開けた空洞に転移させられてな。そこで奴とやりやった。だが、消耗戦になりかけてな。こちらには決め手は無いのに、向こうは当てさえできれば勝ちみたいな状況が出来上がってしまっていた。俺の能力による認知すら叶わない不可視は恐らく効いていたと思う。それでも不利だった。だから、妻に授けられていた転移道具で離脱を狙ったんだが、何故か奴は、それに紛れ込んだのか、自前で転移したのか分からんが、追いかけてきた。俺と同時に、この街の宿屋の一室に、俺と共に、俺と全く同じ姿形で表れて、全く俺と同じ言葉を、俺と微塵のズレも無く、口にした……。俺の魔力は透明。真似なんてできる類のものではない筈なのに……。きっと、瞬きも、呼吸も、完全に同期しているかのよう……。なのに、一切のラグが無い……。妻が機転を利かせて、俺と、俺に化けた奴に、俺の魔力を複製して、同時に打ち込んだ。すると、偽物である奴は弾けて、正体を街の中で露わにして、外の惨状に至る、という訳だ……。効いたからよかった。だが、それでも奴の変装が解けなかったら? それに、奴があの見分け方を学習して、次はもう効かない可能性だってある……。無いとは思いたいが、この街の理すらすり抜けるのではないかと思えてならない……。魔力の模倣なんて、少なくとも俺は、聞いたことすらない……」


「分かった分かった……。落ち着くんだ。焦る気持ちは分かる。俺があんたより冷静に見えるのは、俺は既に大きな衝撃を受けた後だからだ。聞いて驚くなよ。王座が、空位になった。そして、次に座に就くべき王子は亡き王によって、隠された。だから対策が遅れている。伝説の魔物の再臨なんて事態の大きさからして、お上が全力で当たって当然なんだ。しかし、当たっているのは、役人のうちでも、長官殿やその命令系統下である衛兵や門番といったほんの一部のみ。だから、長官殿も現場に出るなんて無茶苦茶なことになっている」


「……」


「この国は全容が見えにくいようになっているからな……。だから、騒ぎもこの程度で済んでいる。官庁街に立ち入ってみろ。化け物が現れたこの外縁部よりもずっと酷いことになっているぞ。宮殿は……あまり想像したくない……。 ? あんたも権限持ちだろう?」


「がはは……。笑えないな……。笑い飛ばせたら良かったのだが……」


「自身の直属の、プライベート含めて交友のある上司が騒動に巻き込まれるなんてこと、この街の者であるなら、心構えは必要だろう?」


「随分軽口……。おい、マスター、あんた、まさか……」


「ふっ……。ばれたか」


 と、マスターは、口を開け、下を窪ませてわざとらしく、そこに溜めた琥珀色の液体を見せた。


「正気か……? 正気かぁ……。がはは……。笑えたわ……」


「酒は偉大だ。愚かなのは使い方を間違える人間の方だよ。話を戻すが、【鬼呪蜻蜓キジュヤンマ】の資料はギルドマスターから渡され、目を通した。あんたの懸念は、確かに記録には無いものだ。首から上だけの剥製が、魔力体になって蘇ったのだから当然のように劣化しているなんて甘い見通しはもうできないということだろうな。時を経て変質している、と。指揮官としての能力に加え、個人としての戦闘能力、特に、人間染みた思考が特徴的といえるだろう。人真似をするなんて、まさにそれだ。それに、人を巻き込んだ転移。逃げである転移であると見極め、追いかける為の転移に、転移先にあんたの知り合い以上がいることを踏まえての人真似での追い打ち。ギルドマスターからこちらに現時点で届いている報告に加え、俺の部下と、古巣からの情報提供を踏まえて、奴の狙いにまで繋がる。あんたのお蔭で確信に至った。奴の狙いは、恐らくは、王座だ。空の王座。その道を探している。座に就かずとも、所蔵の品々の中には触れられる。つまり、完全復活を狙っているってところだろう。魔力体であることをいいことに、自身を分割し、分体でも作るみたいに。しかもそれらを、別個に意思を持たせて動かしている。一人で小隊を率いるみたいにな」


 饒舌になり始めたマスターの口。それは妄言か。それとも――


 聞かされたつぶてには、精査するための情報すら大きく欠けている。


「待て待て待て。あんたこそ落ち着けよ。兎角、お上の事態に俺らが何かできるでもない。だが、【鬼呪蜻蜓キジュヤンマ】の討伐はどう考えたって俺らの領分だろう? 俺らが実働ということは動かしようがない。お上が機能不全でもな」


 と、椅子から立ち上がったつぶては、離れた痴態の人垣の中の、妻に向かって言った。


「我が妻よ! 準備は終わったか?」


「当然」


 すると、痴態を見せていた冒険者たちは、四角く隊列を組むように並び、背筋を伸ばして立った。彼らの目は鋭く、熱意に溢れている。酒に酔った証である淀みは見られない。


「我が妻の能力。ユートピア《自由意志を介さない》、だ。なお、妻のこの特異な能力は後二つある。外の【鬼呪蜻蜓キジュヤンマ】の分体に、そのうちの一つを使っている。あんたの予想通り、俺たちは一先ずの手を打っていた訳だ。取り敢えず、駒としてのこいつらの戦力化ができた訳だが、あんたの手もこれで空いた筈だ。前線に出るか、情報伝達の為に動くか。何れにせよ、どう動くかは任す。俺らは外のをどうにかしてから、ギルドマスターに一度話をしにいきたい。何か連絡手段があれば、提供して貰えるか?」

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他にも色々描いてます。
長編から連載中のもの1つと完結済のもの2つを
ピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【連載中】魔法の家の落ちこぼれが、聖騎士叙勲を蹴ってまで、奇蹟を以て破滅の運命から誰かを救える魔法使いになろうとする話

【完結済】てさぐりあるき
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