第五十一話 英雄譚の残滓 顎と牙の蟲の頂 十一
当主ヴォルフは、女冒険者アーミヤと小さきマクスと、真剣な面持ちで話し合っている。
「斃せた……、と思うか……?」
当主ヴォルフが二人にまず、そう尋ねる。
「無いでしょうね……」
小さきマクスがそう答えると、
「英雄ヴォルフ様。じゃあ、わたしたちは何と戦っていたっていうんですぁ?」
女冒険者マクスが煽るように答えるというか、尋ね返す。
「ぐぬぅ……」
言い淀む当主ヴォルフ。威厳が崩れている。
「アーミヤさん……。父上をいじめるのは御止めくださいよ。この人メンタルよわよわなんですから……。見掛け倒しだって知ってるでしょう……?」
「お前っ、ちょ…―」
当主ヴォルフの言葉は、
「父上。この前言った通り、私は本気ですよ」
息子である小さきマクスに遮られる。力強く、意思の籠ったその言葉に、
「……。構わぬが……」
何か思うところがあると言わんばかりの当主ヴォルフ。けれども、小さきマクスが今しようとしている話題はそれではない。
「それより、今気にするべくは…―」
小さきマクスの言葉は、遮られた。
「マクス君。共有」
そう、腰を低くして、目を瞑って、髪を払って、額を晒す。
小さきマクスは、こくんと頷き、その掌で、女冒険者アーミヤの額に触れた。
流れ込んできた光景。
何もないところに突如現れた、半分ほどの大きさの【鬼呪蜻蜓】そのものの姿を横に二つ繋げたような姿をしていて、何故か、半透明であり、中央付近で、癒合していた、半端な何か。
それを有無を許さず、水の牢で自身ごと無力化したコレクトルと、それを氷漬けにして機械天使という正体を露わにして飛翔していったミツの姿。
まるで、一部始終を近くで見てきたように鮮明。
はっ、とした表情に変わった小さきマクスは、跳躍しながら、自身の父である当主ヴォルフの頭に、掌を覆いかぶせるように触れた。
そうして。
小さきマクスが着地を終える頃には、もう、情報共有も、当主ヴォルフが得た情報を飲み込むのも、終わっていた。
「マクスよ……。儂は最初から言っておろう。反対するつもりは無い、と。何をそんなに不安に思う……。かえって恐ろしくなるではないか。……。…………。い、いや、まあ、趣味趣向は人それぞれだから。我々の一族は殊更、な。はは……。ははは……」
そう、当主ヴォルフは、引き攣った表情で、それでも無理やり微笑みながら、隠せない冷や汗を垂れ流しながら、自身の最も内面的に異質な息子の肩を叩いた。
当主ヴォルフの反応は、当然、本来の目的である光景の共有のせいでは無い。ついでに流された、見せられて困惑せざるを得ない経験や光景の数々の雨あられに引き攣っただけである。
(お前のことだ。政略婚では破綻すると目に見えておったし、だからこそ、敢えて触れずにいた。お気に入りと自己申告していたが、明らかに――)
女冒険者アーミヤの顔を見る。
「わたしの顔に何かついてます? ヴォルフ様。今は兎に角、結論を早く出して、方針を決めるべきでしょう? 苦悶している暇はありませんよ?」
当主ヴォルフは、そうやって、おふざけを平気に、一応偉い人であるこちらに対して向けて来つつも、言っていることは至極当然であるというやるせなさ。
何より、先ほどの経験の共有によって見せられた光景。それが、女冒険者アーミヤの能力の数ある一つとして、足された。
千里眼。
それ一つで、一生豪遊して暮らしていける能力。少なくとも冒険者なんていう危険に対して実入りの少ない仕事に就く必要なんて無い筈である。
(構わぬがなぁ……。宣言通り、候補として自分で見つけてきたのだし。だが……幾ら何でも……儂とて人の親。心配になるわ……。我が一族のこれまでの歴史の中でも、上から数えた方が、恐らく早いぞ……。その娘。儂が言うのも何じゃが、大概じゃぞ……?)
だからこそ、当主ヴォルフは余計にもやもやさせられたのであった。が、すぐさま正気に戻される。
「父上。一旦戻りましょう。少なくとも、アレが限りなく実体に近い幻想体を複数手繰る、若しくは自走させられる、また、分裂も可能、ともかく、複数個所に、大きさを変えて、同時に存在し、別々に動くことが可能だということは間違いありません! 瞳が本体であることは間違いないでしょう。剥製の破棄も急いでやる必要があるでしょう」
小さきマクスが頭がパンクでもしそうな様子で、まとまっていないながらも、現状のマズさを言葉にしたから。
「はぁ……。しっかりしなよ。でも、キミの言う通りだろうね。ヴォルフ様もそれでいい?」
呆れた表情を浮かべながら、小さきマクスの頭を撫でる女冒険者アーミヤ。家系からくるその能力故に、接触に対して拒絶感が強めだった筈の息子が、恐ろしいくらいに心を許していることがそこから分かってしまう。
「あ……、あぁ……」
息子のそんなところを見て、もう、威厳の仮面なんて剥がれ落ちていて、もう素で、そんな歯切れの悪い反応しかできない当主ヴォルフ。
「それと、街の入口についたら前に出てね。ボクらだと話をまともに通せないから」
女冒険者アーミヤは、そう、陽気に笑うのだった。どこまでを素で、どこからが計算か。それが分からない、尻尾を掴ませないからこそ、なおのこと、恐ろしくて、だからこそ、案外息子の相手としてアリなのかもしれないと、当主ヴォルフはほんのちょっとだけだが、安堵できたのだった。
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