第四十六話 魔の瞳を求めて 泡沫藻屑の穏やかな永遠 八
目を、開けた。
周囲を満たしていた筈の水はもう無い。それどころか、何もないその部屋は、水気も無く、自身の身体は、衣服も含め、乾いている。
どうしてなのか、視界に映る、その顔に尋ねてみる。
「ツグさん。どのくらい経った?」
真剣な面持ちで、自分を見下ろすその顔に。
「ものの数分で御座います」
「数……分……?」
廊下にいた筈の自分。こうやって、状況も景色も変わっているのだから、意識が途切れのだと分かる。そして、近くにミツの気配もコレクトルの気配も無い。
けれども、ミツの空気感から、緊急事態は解決しているし、二人は行方不明や戦闘不能に陥っている訳ではないのだと予想がついた。
だからこそ――見るべきは、全体である。故に、時間の経過を尋ねたのだ。
二人は屋敷を出て、先行した? 残っているのは自分とツグ。
そう、大ききボーロは思考を巡らせていた。
「そうか。なら、俺たちも早いこと、後を追いかけないといけないな。世話を掛けたな。ありがとう、ツグさん」
そう、頭を起こす。立ち上がり、膝を貸してくれていた、機械天使の姿のツグに、一先ずの安堵を表情で表現し、深く頭を下げた。
「どういたしまして。ですが、お礼を言うのはこちらの方であったりするのですよ。ボーロ様のお蔭で、事態を打開できたようなものなのですから」
「貴方が言うのなら大方想像通り、上手く収まったということか。コレクトルさん強化は果たせなかったが、戦場に戻ることはできるのだからまあ問題は無いだろう。……? 妙に、身体が軽い? ぐっすり眠った後のような気分だ。頭も普段より……。あぁ、ミツさんの権能を使って休息を取って、……。んん……?」
「そうご心配なさらずに。コレクトル様が眼窩に嵌めた瞳? の効果ですよ。わたくしたちが想像する形とは異なる回復が為の瞳として作用したということでございます。アレは。ですので必要なものは最低限手にできた、ということで御座います。事の顛末は、移動の間にお話しましょう」
そう言って、ツグがゴーレムの偽装を纏う。
二人は、屋敷を出て走り出した。
実に単純なことだった。
『【ゴ機嫌如何デショウカ? 入眠補助カラ始マリ、呼吸スラ止メテノ真ノ休息ニヨル完全ナル回復ヲオ届ケスル水精槽ヲ今後モ御ヒイキニ】』
契約で縛られた水精の込められたガラス玉。
使い方を忘却され、放置され、それの存在も価値も知る者がいなくなる程、時が流れ、回復用途の水の魔力の触媒という価値を新たに付けられたそれ。
発動させる者が一人必要。掌に乗せ、手の神経を接続し、それの中へ意識を入ることで、水精がその者を穏やかな休息へと誘う。穏やかな夏の海のまんなかという状況を再現し、本来絶望的なその状況の中で、穏やかなバカンスをしている気持ちにさせるという、異様なそれは、それの効用を知らずに使った者、例えば泥棒といった想定される悪用者に、それを手から離させる効果を発揮する。知っているなら、それに身を委ねたらいいだけで危険はない。
発動が成れば、周囲が魔法の水で覆われる。範囲は発動させる者が指定しなければ自動で定まる。その中にいる者は、自動的に眠たくなる。そして、眠りに落ちる。抵抗は許されず、範囲内の誰もが対象になるため、寝ている間の安全は、保証されている上、万が一があったとしても、それは無かったことになる。
機能は、精神の回復。魔力の回復。肉体は欠損の修復などは無理ではあるが、体力や臓器などの機能低下からの回復。ついでに魔法の水経由での栄養補給まで。
働く者を無理やり休ませて、無理やり健康的にしてしまうという、無茶苦茶な魔法。
それは、遥か昔の時代に作られた、労働中毒者を無理やり休ませる為の魔法。そのために水精が自由意思を制限されて縛りつけられているという何とも黒い品である。
そんな中、水の密室が破れるという、本来想定される出来事の範疇を越えたため、冒頭のような、所定の文言が再生され、まさか、と権能を行使したツグがその馬鹿げた裏側を知って、笑い話になった、ということである。
コレクトルであればそれは使える。後は、コレクトルが、使用を終わらせる際に目から外すか、処理が終わって自動的に展開が終わるかを待てばいいだけ。
コレクトルと共に、戦闘不能者を後方に下がれさえすれば、単体ではなく、複数の回復。それも、ものの数分でそれが完了する、ということが分かったからだ。
手足の欠損などが起こっていても、それは通常の回復魔法を行使すれば良い訳であるし、回復用の魔力の心配ももういらない、ということなのだから。
そして。今回のように途中終了したとしても、回復は続き、残り時間をそれは予告してくれる上、その時間というのは、通常使用時での必要時間のせいぜい倍程度に収まる、ということ。
ツグが権能で覗いた結果、自由意思を縛られた水精の心はさながら、かなり手厚い説明が細部にまで及ぶ出来の良い説明書のように、全てが記されていた。
――ということを、ツグは大ききボーロに何とも面白おかしく説明してみせたのである。
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