第三十七話 英雄譚の残滓 顎と牙の蟲の頂 六
大ききボーロが置いていった、様々な魔力持った魔物の瞳。
ゴーレムのガワを被ったミツと左目に何も嵌めておらず眼帯を付けているコレクトルは、それらを眺め、考えていた。
それぞれの前に置かれた、大きなボーロの知る範囲でのそれらの経緯や来歴が走り書きされ、置かれている。
二人は隣の部屋にいる。
壁は厚いから、たとえ叫んだとて声は届かないが、隣の部屋へ呼びにいけばいいだけなので、大した問題にはならない。
ツグの能力が、壁越しであっても使えていればよかったが、どうやら駄目であったので。それでも、ミツの能力の副産物である時間の隔絶の範囲には、隣の部屋も入っていることは確認済であるので、時間の心配だけはしなくてもよさそうだった。もしも駄目だったら、二人には先行して貰う他無かっただろうから。
兎に角、試していく他ない。
通されたこの部屋が、半分埃をかぶったような、目の前の机と天井の照明以外には家具も何も無い、灰色で継ぎ目も割れも無い天井と壁に、褐色の煉瓦床含めて、高級そうな装飾等ない、空き部屋であったことに安堵するコレクトルは、ミツに言った。
「不味い、と感じたら、わたしを封じてください。その力の対象をわたし一人に限定することさえできればきっと」
「コレクトル様。それはできません。やるとなれば、わたくしと貴方様諸共、となるでしょう。あくまで副産物、だというのはこういうことなのでしょう」
「ミツさんはもう、既に色々試し終えてるんですね」
「必要でしたので。ツグが力に引っ張られてるのと同じように、わたくしもどうも……。発散が必要なようでして。向こうからすれば良かれと思ってなのでしょうが……」
ツグのその遠回しな言い方に、コレクトルは申し訳なく思った。見せて貰ったあの光景の中の存在は、自分のせいで現れたと宣言していたのだから。
ツグのそれも、ミツのそれも、そう無暗に使っていいものとはコレクトルには思えなかった。どちらも強力で、魅力が過ぎる。喉から手が出る程欲しがる者が現れてもおかしくない。その上、抑制が効かず、他人に向けて使うには、影響が大き過ぎるので、発散が必要という言葉の裏に伏せられた程度次第ではあるが、これではただの重荷だ。
「わたしも手伝います。ボーロ様も申し出てくれています。ツグさんもミツさんも、きっと、できます! わたしだって、少しずつですが、嵌める瞳たちに、慣れてきつつあるんですから。きっと、何とかなります」
そう、力強く、コレクトルは言った。
【麗眼・六晶雪片】
【見ての通り氷の属性。水と風の複合属性とも見て取れるが、これの持ち主のように、使い分けることは叶わない。杖に嵌める魔法触媒として加工済であり、その影響かもしれない。触媒として氷魔法の行使を助ける作用しか発見されていない。変容する結晶の形による効果の変化などは見られない】
【実体が半ば存在しない、自然発生した雪の精霊から偶々抽出された。一見瞳のようであるが、そもそも人間大の氷の結晶が、頻繁に形を変えながら、周囲に氷魔法を無作為に撒き散らすだけで、地面から浮かび、くるくる回り、目玉どころか、顔すら無く、手足といった、部位そのものが無かった、少なくとも区別がつかなかった。意思すらまともにあったのか怪しい。故に、比較的安牌であると判断し、供出する。】
水晶のような透き通った眼球の中に、薄水色に浮かぶ、一つの巨大な雪の結晶。六角形のそれは、その構造を時折変容させつつ、存在している。
死体の一部であるかどうかすら怪しい。目玉ですらなく。まるで、それ全体が、その精霊? が圧縮された、塊のようなものではないのか? とコレクトルは思った。
ごくり。
コレクトルは生唾を飲み込んだ。嫌な汗が、頬を伝う。
「問題ありません。コレクトル様。ゴーレムのガワを被っている今のわたくしに、凍結は効きません」
なら、と、コレクトルは、
「取り出して貰えれば、きっと暴走したとしても止まると思います」
それを手にとって、眼帯を外す。
「最悪潰してでも、責任もって、止めさせて頂きます」
安堵し、コレクトルは、それを、嵌めた。
「……」
「どう……ですか……?」
「蛇眼と同じ……。何も、宿ってない……」
「何も、行使できないと……?」
「そんなことは無さそうです」
キィイインンンン!
指先から冷気の塊を放出してみせるコレクトル。それはまるで、冬場に吐いた、白い吐息のよう。
「一応使える可能性がある、ということでしょうか?」
「それはそうなんですが……、どう使ったらいいかイメージが湧かないんです……」
「イメージ、ですか? コレクトル様。貴方様は魔法を行使する際、常に無詠唱であるようですが、少し、声に出して貰うことはできます?」
「っ!」
びくん、とコレクトルが、目を見開いた。
「急に、どうしましたか、コレクトル様……」
「ツグさん、わたし、魔法を使うとき、詠唱なんて……したことが、ない……」
「えっ……?」
ミツはそれを聞いて驚く他なかった。
コレクトルがそんな自身の異常な行為に気づかなかったのは、この街の認識阻害が働いていたからで説明はつくとはいえ、それでも。その異常な行為自体が無くなる訳ではない。
詠唱を伴わない魔法。
それは、言葉を伴わない魔法。
人間とその亜種が行使する魔法と、魔物と言われる存在の一部が行使することのある魔法の間にある最大の違い。それは、魔法の発動が、言葉を介在するものであるかどうか、である。
つまり、コレクトルのそれは、化け物たちのそれである。人間とその亜種のそれとはまったく別の……。
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