第三十六話 英雄譚の残滓 顎と牙の蟲の頂 五
「知らんな……。類似の話すら聞いたことすら無い……」
そう、大ききボーロは腕組みして、唸る。
「よりにもよって、この都での出来事ですからね……」
ミツがそう、同意する。まるで他人事のように。
「ミツさん……。今のは……ボーロさんたちのと同じ……」
「全く違いますよ、コレクトル様。わたくしのこれは、記憶の共有。わたくしの光と音だけ。それ以外の感覚は付与されていませんし、しようと思ってもできません。それに、ボーロ様のように、1対1ではありませんし、追体験ではなく、共有です。時は、流れておりません」
大ききボーロが、急ぎ、部屋の外へ出て、外の陽の高さを見て、戻ってきた。
「どうなっている……!」
「副次的効果として、時の遅延を、空間の範囲を定めて展開可能なようなのです。先祖の記録にも、最早、詳細は残っておりません。神に赦された権能の模倣。幾つかも分からない。複数種類が存在する。そう記されているばかり。どうやら、複数の弩級魔法の複合、ではないかというのが、わたくしとツグとの現状の仮説でございます」
「わたくしたちに焦燥が無いのはそういう理由で御座います。そして、わたくしこと、ツグのそれは、真贋判定、で御座います。有形から無形迄、対象は果て無く広く」
「心もその対象……ということか……。できる限り隠し続けることを勧めたいところだが、もう、遅いか……」
そう、大ききボーロが肩を落とす。その能力の価値を理解できないボーロではない。一族としての蒐集癖からして。
「お優しいことですね。貴方様の一族の蒐集対象は、無生物だけに留まらないというのに」
棘のあるツグの言葉。
「俺も兄も、父も。分別はある。一族の他の者はそうとは言えんのが辛いところだが……」
大ききボーロは苦い顔をして笑った。
「ツグ。おやめなさい。コレクトル様。貴方様はどう思われましたでしょうか?」
「……。はっ! は、はいっ!」
考え込んでいたコレクトルは、急に話を振られ、びくつく。
「あの店主のことでございます! あのような存在、貴方様の里で、記録として残ってはおりませんでしたか?」
ミツは止まらない。
「全く……。ですが、こう言い伝えられてはいます。『我々は孤独であっても孤立無援ではない。見守る存在は確かに存在する。精霊の如く、触れられず、見守られ続ける。よって、恐れなくともよい。外を』と。……」
コレクトルの表情を見て、ミツの心は酷く痛む。それでも、止める訳にはいかない。よりにもよって、機械天使という今となっては希少な種族を知っているだけではなく、その秘奥を知っており、その上、種族の者ですら最早知らぬ権能を解放せしめたのだから。
「あれの正体にせめて幾つかの仮説くらいは立てておかねば安心できないのです……。わたくしたちは軽率に誓ってしまいました……。あれが悪意を伏せ持つ者であったならば、わたくしたちは破滅に到達させられるかもしれないのですから……。きっと、貴方様を何だかの形で巻き込…―」
「ミツ! おやめなさい! コレクトル様はアレについて知らない、と判明したではありま…―」
ガシッ!
「診るなぁぁっっ!」
ツグは、ミツの腕をつかんで、怒号を飛ばした。
「あっ……。ごめん……なさい……」
ミツが謝りの頭を下げた先は、コレクトル……。
「息をするように行使してどうするのですか……。読心能力者の末路なんて、有名な悲劇を辿るつもりですか……。申し訳……ありませんでした。コレクトル様……」
ツグはそう、ミツに釘を刺して、コレクトルに謝った。
隠し事をしている訳でもないし、しないだろうと信じていた筈のコレクトルを、自分たちのために詮索したのだから。
「……三人とも。話を戻すべきではないか? まずは何より、目先の脅威への対処が先ではないのか? コレクトルさんに責任の一端があるという話にされかねない碌でもない事態なのだ。俺に来る責任は構わない。寧ろ、この危機は俺が引き起こしたといっても差し支えない。アレを渡すよう兄上に提案したのは他ならぬ俺なのだから……」
「幾ら力ある存在の部位だからといって、一式揃っていない、断片、でありましょう」
ツグがそう言って、
「剥製という形に加工、つまり、魔道具に近い形に収まっていた筈、でありましょう」
ミツがそう言って、
「「ですから、貴方様に咎はありません。この都に滞在しているのですから猶更」」
二人揃って、そう言った。
「あの眼なんですけど、どうして、わたしが付けたときは暴走しなかったのでしょう……」
話を前に進めようとコレクトルが疑問を口にする。
「暴……走……?」
大ききボーロは青い顔をして、青筋を浮かべた。そんな危険が起こることを隠していたのか、という、危険行動に対する認識欠如を責める意思が露骨に伝わってくる。
「コレクトル様の能力は秘匿事項で御座います。よって、口で説明したとして、貴方様たちが目撃してすら、認識は歪められます。説明しても無駄なので御座います。説明が説明にならないのですから。ですが、コレクトル様はC(Certificated)ランクに至りました。ですので、その縛りが、同位者以上には解かれます」
ツグがそう説明しながら、力を行使してしまう。
「父上の言う通りとうことか……。『ランクを上げねば、かの地では小さきこと一つ遣り遂げることは叶わぬ』と……。影響を和らげる品は貸与されてはいたが、どうやら完全には程遠いようであるしな。……良ければ抑制訓練くらいであれば付き合わせて貰うぞ。今回の件の埋め合わせとして。その手のノウハウは充実しているからな。ツグさんだけでなく、ミツさんもどうだ? 当然、コレクトルさんは、悪いが強制的に付き合って貰うぞ。……責めてはおらん。本当だ……」
「本当のようですね」
ツグがまたそうやって力を行使すると、
「いい加減にしなさい」
ミツがその頭を叩いた。
「わたしとしては、ミツさんの能力が肝だと思っています。強者が如何にして強者であるか。今回の相手の場合、その攻撃速度と攻撃範囲がその理由の一つになっていると思うのです」
漸く、本題に入った。
「わたくしの能力が、時間の流れの分断を維持できるかは分かりかねますよ……?」
ミツはそう、自信無く返答する。
「なら、試せばいいではないか。寧ろ、試しておくべきだ。デメリットが無いとは考えにくい。見つかっていないなら、血眼になって見つけておくべきだ」
大ききボーロはそう提案する。
「ボーロ様。回復魔法の心得はおありでしょうか?」
「全くだ……。……だが、いや、待てよ! コレクトルさん。貴方にも色々試して貰いたい。精神回復、肉体回復、物理回復、解呪、等、その手の魔眼が、生ではないが、一応ある。良ければ、だが……試して……貰えないだろうか……」
と、思いついて、提案して、大ききボーロはコレクトルに頭を下げた。
決して軽くない。貴族の子息のそれは。
「覚悟は、してます……。ですが、人様に見せれるような光景では、無いです……。特に、男の人には……」
そう、コレクトルはぼかす。
「ミツさんとコレクトルさん。俺とツグさんとで、それぞれ試行する、というのでどうだろうか? ……。どう、だろうか……」
その目付きは真摯なものだった。
ツグとミツを見る。
自分が決めるしかなさそうだった。
「じゃあ、急ぎましょう!」
コレクトルが、号令を上げ、部屋の出口へと率先して向かうのだった。
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