第三十五話 英雄譚の残滓 顎と牙の蟲の頂 四
「コレクトル様、失礼っ!」
ドンッ!
ツグの体重の掛かった両掌での圧が、ベッドの上に横たわらせられたコレクトルの腹に掛かる。
「ぶぅ、げほげほっ……、……」
口元を汚しながら、腹のあたりからこみ上げる苦しさと共に、状況を飲み込めないコレクトルは、辺りを見渡した。
「ツグ……さん……? ミツさんに、ボーロ様?」
言葉にしたのは、どうしてそういう取り合わせなのかという疑問。
コレクトルは、苦しさを感じながらも起き上がり、ベッドから降りて、立ってみせる。手足を動かし、五体の無事を確認しつつ、気持ち悪さに何度か口元を押さえた。
「……。状況はっ!」
思い出したかのように、コレクトルは強く、三人に向かって尋ねた。
「ギルドとしては総力戦に移行中、といったところでございます」
そう、ツグが答えた。
「ですのでコレクトル様。貴方様のC(certificed)ランクへの昇格を、この場で行います」
「っ!」
「ご心配なく。既に話はつけてきております。では早速――」
有無を言わせず、畳みかけるように、ツグはそれを行った。
藍の魔力光がツグの瞳から薄く放たれ――
「……。えっ?」
コレクトルは戸惑いを声にした。何も起こらない。何も変わった気がしない。
「コレクトル様。Cランクとなった貴方様は、疑問を抱くことを許されるようになりました。貴方様はそれなりに好奇心旺盛ですし、何事も試してみようとするタチです。わたくしたちの正体である――」
ツグは自身の頬を掴み、金属色から、肌色に、つまんだ部分が変わり、そのままそれを引っ張り、肌色に染まりきった被りを外し、その素顔を曝した。
「機械天使。旧世界の生きた遺産と言われた、嘗て存在したと記録に残る種族。貴方様が、興味を持たなかったのはどうして、でしょうね? 驚きが不自然な位に小さすぎた、と思いませんでしたか?」
バサッ、とミツも同じように。
大ききボーロは驚きを隠せないでいる。
「この方のように」
知っているコレクトルに驚きは無い。だから、と、言葉を返そうとしたコレクトルは、
「……。それを言うなら、わたしだって、エルフですよ? 人間の世界では、希少で、見目麗しさから愛玩…―っ……!」
その異常に気付いた。
「その通りです。コレクトル様。この都、フリードでは、異種に関する差別意識が働きにくくなっています。こういった意識誘導は多岐に及びます。疑問を抱くことを許される。その意味も、ここまで言えば、貴方様であれば分かるでしょう」
「でも……どうして……今……。だって、わたしを今も続く闘いの戦力と数えるなら、Cに上がったメリットよりデメリットのほうが上回るでしょう……?」
「待ってくれ! 置いてきぼりになっているのだが!」
「ボーロ様。もう少しですので、お付き合いを……」
ミツが控えていたのはそういう理由だったのかと、コレクトルは悟る。そして、そういった所作や意図について、どうも不自然に鈍くなっていたような気がしたことに、このタイミングで気づいたということは――と、コレクトルは勝手に納得した。
「コレクトル様。納得頂けたでしょう」
「えぇ……。まぁ……。予め説明しておいてほしかったけれど」
「概念に片足突っ込んでる事情ですし、この方が早いと……。それに、わたくしたちは、戦場に馳せ参じなければ、コレクトル様は早いこと戻らねばならない訳ですし。その為に、貴方様にお聞きしておかなければならないのです。外の化け物。アレが、剥製の瞳の一部から再生したというのは本当なのですか?」
「間違いないです。わたしの眼窩に嵌めて、使ったばっかりに、その中に残っていた意思を励起…―じゃあ、この瞳は……?」
コレクトルはとっさに、今嵌っているそれを取り出した。
赤黄色に煌めく蛇なる瞳。
取り出したばかりのそれは、生温く湿っている。
「それはっ!」
反応する大ききボーロ。
「何か知っておられるようですね、ボーロ様」
ミツがそう言うと、
「どうして今まで気づかなかったのか、自分を殴ってやりたい気分だ……。ほんの少し前のことだ。オークションの目玉商品として、大々的に宣伝されていた品だ。確か、煽り文句はこうだったか? 【嘘か真か! 伝説の頂、黎明たる邪眼竜王! その瞳を貴方の手に収めたいとは思いませんか?】」
勿体ぶることもなく、大ききボーロは明かした。
「それなら! どうして今まで誰も…―」
悲嘆交じりの声を上げたのコレクトルであり、
「非公式なオークションだったからだ! 蒐集と模造の招待制ギルドのな!」
大きなボーロは、まるで繕うように大きな声で、そう言った。
「初耳ですね」
ミツがそう言うと、
「ミツさんでも知らないって……」
コレクトルは訝しむ。
「だからそういうものなのだ! 招待制。内に閉じた秘密の場所なのだよ! あるあるだから、覚えておくべきだコレクトルさん! 貴方はきっと、この手のものに手が届くところまで登ってくる人材なのだから!」
焦りと共に、畳みかけるように大ききボーロが言うため、更にコレクトルは不信を強めるが――
「コレクトル様。ボーロ様はただ、女性に感情交じりに責め立てられることに慣れていないだけです」
そう、ツグが藍色の魔力光を両目に点滅させながら優しそうに言った。
「ツグさん、いくらツグさんでも…―」
コレクトルがそう言うのを、魔力光の消えたツグが言う。
「コレクトル様。わたくしとミツは、不思議な体験をしました。つい数刻前。貴方様の同胞という存在と遭遇しました。この前、一緒にお買い物した露店。そこの店主が、エルフと称しまして」
「ツグ。ここからはわたくしが。では、コレクトル様に、ついでに、ボーロ様も、御覧あそばせ」
ミツは、蒼き魔力光の発露と共に、それを行った。数刻前、体験することとなった不思議な経験を二人に瞬く間に、追体験させた。
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