第三十四話 英雄譚の残滓 顎と牙の蟲の頂 三
「【ほう。知り合い同士といった様子では無かったが。その忌まわしき力で記憶でも共有したのか?】」
小さきマクスは不快な表情を浮かべる。
爆炎の中から現れた、無傷なそれの声に。
「質量のある幻、って訳じゃあなさそうだけど? 奇妙なもんだね。マクス坊ちゃん」
そう、女冒険者アーミヤは、小さきマクスの肩を馴れ馴れしく叩く。
「もう私は大人ですよ?」
「じゃ、威厳を出しなよ。弟君から聞いたよ? 最近舐められないように、とってつけた喋り方を身に着けたんだって?」
「貴方にまで煽られる謂われはありませんよ」
「ほぅら。その顔だよ。そっちの方が、キミらしくて、強くいられる」
ただの浮遊のための羽ばたきの片手間に飛ばされてきた、鋭い風の圧縮弾を、無言の詠唱で、弾くように次々にいなしながら、女冒険者アーミヤは笑った。
「叶いませんね。悔いるべきなのか、分からなくなってきましたよ。過去の過ちを」
と、目つきを鋭くし、小さきマクスは、懐から抜いたそれに、瘴気の迸る紫の電子回路のような文様を迸らせ、投げた。
バターナイフ。
ほんの十数センチ程度の、何の変哲も無いそれを素体とした攻撃は、羽ばたきによる風圧の壁を他愛無く抜けた。
ここに来て、初めて――【鬼呪蜻蜓】は、攻撃を迎え撃つでもなく、ただ、避けた。
そして――遥か遠くに飛んでいって消えた筈のそれは――当たる。飛んでいったそのときよりも速度を増し、貫いた、が……
「【何処を狙っておる? 下手糞が】」
そう、貫かれ、半透明な濁りし液を零しつつも、ぐらつきも、落ちもせず、その貫通痕も、撒き散らした液も、消える。揮発でも蒸発でもない。そんなもの最初から無かったかのように消えたのだから。
「【興も冷めるというものだ。折角お前たち二人の演技に乗ってやったというのに、その程度しかできぬのか?】」
【鬼呪蜻蜓】はそう、冷たく言い放つ。
当主ヴォルフ、大ききポーロ、意識を失ったままのコレクトル。その三人が消えていること何て、とっくの前に気付いていると、言わんばかりに。
「それは王様。貴方のノリが悪いからじゃあないのかい?」
「【儂が大根役者だというのか?】」
「だって王様、ほぼ見る専でしょ? ここんとこずっと」
「【ふはははは。少しばかり再び興が乗り始めたぞ? それと一つ誤りがある。儂はこの愉しい時を占有するつもりは無い】」
キッ、と、両の目の複眼が光る。
【鬼呪蜻蜓】の前方から、数十メートル離れた、アーミヤと小さきマクスとの間の空間を、埋め尽くすように黒い影、怪しく光る、小さな瞳の集合。そして、夥しい不快な異なる羽音の不協和重奏。
「【何せ儂は、戦士ではなく、司令官であるのだから。知っておろう?】」
その愉悦の言葉が号令となり、
半実体なそれらが、瞳以外に色の無い、影の身体のまま、二人へと向かってくる。
(父上の想定が、外れた、だと……? これではまるで、全盛期の……)
(あらら……頂上たる方々というのは、どうしてこうも、気紛れなんだろうねぇ……)
――通り過ぎていった。
「「っ!」」
「【当然だろう? 軍勢を競う。指揮を競う。今一度。よって、足りぬ。貴様らの駒がな! これ位せねば、面白みに欠けるだろう?】」
表情なんて存在しないその顔は、きっと、悪意塗れに笑っているに違いない。
二人の表情に、とうとう、焦りが生まれた。
(過去の話も知っていた。だから、御遊びに付き合い続けて、態勢を整える時間を稼ぎさえすれば、フリード上層部が本腰を入れ、終わりにもっていける筈だった……。援軍の一人すら来ないままに、こんなにも早く……)
(マクス坊っちゃんは想定していないだろうね……。過去の記憶の中と、今のこの不完全な王様。下手すれば、今の方が強い上に……時間を味方にできるって思ってるのは、こっちだけじゃあないってことだろうね)
大量に展開した半実体の影の蟲たち。それらをけしかけた先はきっと、遥か後方の、かの都、フリードに違いないのだから。
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