第三十三話 英雄譚の残滓 顎と牙の蟲の頂 二
「【どうしたどうしたぁぁああ! 不完全な儂に押される有様わぁあああ! 老いには勝てぬかぁああ! 貴様こそが死にぞこないではないかぁああああああ!】」
巨大な蟲である癖に、その速度は、鈍重とは程遠い。
だというのに、それが駆動しても、巨大重量物が動いたような風圧の発生は起こらない。
つまり、見掛けよりも軽い上に表面が強靭で柔軟で中はすかすか、もしくは、重さを誤魔化している。
「ほざけぇえええ!」
無詠唱で飛ばされてきた、指向性のある不可視の貫く一発の強烈な弾丸のような竜巻の如き風の塊を、握り、潰す、当主ヴォルフ。
しかし、それを行って手の皮膚は、かまいたちに纏わりつかれたように、裂け、傷だらけになる。それでも血は出ていないのは、その皮膚が、異様に厚いのか、何か、肉体強化の類なのか。
「【良いのか? 隙を晒して。貴様に過去のような防御半径はあるまいに】」
と、滞空を保つ為のただの蟲の2対の羽から、蒼い魔力光が放たれて――
地面を抉りながら、真っすぐ、四本の破壊の光線が、肥大しながら、
「ちぃぃっっっ! 息子共ぉおおお、備えよぉおおおおお!」
三本は、当主ヴォルフが掴み、抱き絞め潰すように、圧され、青き爆発となる。一本のみ、通り過ぎてゆく。
向かってくる。当主ヴォルフの後ろ。つまり、コレクトルとアーミヤ、そして、二人を解放しようとする、小さきマクスと大ききポーロが。
大ききポーロは構えていた。
仁王立ちし、血走った目で、踏ん張るように体に力を込めたかと思うと、筋肉は、否、その体を形作る全てが、肥大した。
象のような太ましき足。土偶のような体格。並みの人間の大人10倍分ほどの全長。魔法の緑燐光を放っている。
青き光は、確かにその体を焼き切るように縦に、下から上に一閃し、走り抜けていった――が、表面を焼いたことは焼いたが、表皮層すら焼き切れず、無事という有様。
「【ふはははは! 訂正しよう。今も変わらず、貴様ら一族は儂の好敵手だ!】」
と、口元から、多重に、多層に、前へ。破壊の波が、地面に平行に、飛んでゆきながら、拡大してゆき、地面を砕き始め、破壊の規模を大きくしながら、前の波に後ろの波が追いついて、破壊の威力は膨れ上がり、
「ほざけぇえええ! 遊んで欲しいだけなら、迷惑かけるなぁああああああ!」
当主ヴォルフの両目が、煌めく黄色と黄白色のコントラストを作り出すように魔力光を放ち、上半身の服が、弾け飛ぶ。
しっかりと踏ん張り、両手を前に出し、受ける。
それは衝突と同義。破壊が、散るように、地面に拡散し、恐ろしくゆっくりな破壊の白光の爆発の発露という、異様な光景が起こる。
それは、威力の渋滞。それは、対応できない弱者にとっての絶望の結果までの猶予。
「"逆転せよ、膨張から。渦巻く力、飴玉の如く、」
小さきマクスの魔法は、奇妙な文言であった。それが魔法であるのは、両の目に微かに薄く纏う紫の魔法光を見れた場合か、その文言の通りに現象が捻じ曲げられるさまを見なければ信じられないだろう。
衝突の結果が、中心たる二人から広がり、その戦闘の場にいる全てが巻き込まれるかと思いきや、それは、嘘のように消えてゆき、白光りする飴玉のようなものを、小さきマクスが手にしていた。そしてそれを、小さきマクスは投げた。魔球のように、うねるように曲がり、砂の粒のように小さな蟲の飛行の如き速度で飛んでゆき、
自分を狙っていると分かっていた【鬼呪蜻蜓】は鼻で笑うように、それを余裕をもって弾…―
「そして終末に、令を忘却せよ"」
飴だけに、熱を持った羽根の一つに表面が溶けて、くっついたそれは、分割された文言である詠唱の通りに、飴になる前の効果を、破壊の中心として滅却の光を齎した。
「【ふははははは。灼き切れる訳があるまい。属性一致で、儂由来の魔力で。愚か者め。返すぞ】」
ふわん、と、【鬼呪蜻蜓】の口から、唾のような粘りを持った、泡が出た。それを、羽で仰ぐように、飛ばす。
ただの泡が、不規則な蟲のような動きをするのは、それの強度と、受ける風の強さと、その風が竜巻のような回転であるため。加えて、泡自体の回転も加わり、その動きは無秩序ではあるが、【鬼呪蜻蜓】の方には飛ばない辺りたちがわるい。
そうなっているのも、その泡や起こす風にそういう操作をしているからなのか、泡自体に付与されている魔法の一つとしてそういう操作が含まれているのか。要するに未知。
だからこそ、読めない。
【鬼呪蜻蜓】の戦い方は、何処か舐めていて、隙があり、まるで遊んでいるかのようで。
「よしっ! キミ、ナイスファイトッ! 合わせて! "焔よ、太き線を、遡り、迸れっっ!"」
意識を取り戻したアーミヤが、いきなり叫び、唱える。
「"唯在る空気よ、圧迫の、この一日の最大値を想い出せ"」
小さきマクスは意図に気付き、咄嗟に合わせた。
未だ、コレクトルは眠っている。
回復魔法では起きない。アーミヤもそうであった。
その絡繰りが、大きな鍵であるのだが、勇者側である彼らの誰もが、未だそれに気づく気配はない。
読んでくださり、ありがとうございます!
少しでも、面白い、続きが読みたい、
と思って頂けましたら、
この下にある『ブックマークに追加』
を押していただくか、
広告の下にある
【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に
していただけると幸いです。
評価やいいね、特に感想は、
描写の焦点当てる部分や話全体
としての舵取りの大きな参考に
させて頂きますの。
一言感想やダメ出しなども
大歓迎です。




