第三十二話 多層壁離塞都フリード 三
フリードの真なる中枢。
そこは、区画から切り離され、異なる次元に存在する花園である。
草木生い茂り、蝶が舞い、虫が奏でるように鳴き、花々が色を競う。
果て無く広がっているそんな光景の中心には森が存在する。古くも瑞々しい木々の青々と生い茂る葉の間から、優しく注ぐ陽光。人がその下を歩くのに苦難は無く、遊歩することができる。その先へと踏み入ってゆくと、それは存在する。常昼常春が約束された、原初のエルフの森を再現したそこに、王座が。
削り出しの灰白色の石の王座。
しかし、空位である。
そうなって、久しい。
男であるかは問わない。王の候補と成る者に。
世継ぎを残し、王配を残し、この地に踏み入り、座に就く。そうして、候補は王となる。
フリードの公たる中枢の頂。
偽りの王座。
本来、王配が座す、赤き居。
薄闇が漂い、唯一人。
まき散らすように、赤い燐光を放ちながら、迸る文字。刻まれる文言。
広げた一枚。
ねじれるように、うねり、カタチになる。
鳥となり、闇の先へと消えていった。
「潮時、か」
疲れた女の声。
「教育は未だ終わりには程遠い。それでも、もう、」
椅子に女は腰掛けた。
姿が消える。
そこから転移可能な行き先は二つ。
一つは、フリードの公たる中枢の上層たる政宮。そしてもう一つは、相応しき者のみが辿り着くことができる一方通行の、此処ではない何処か。
そうして――花園に、一つの人影が降り立った。相応しき者として。
このフリードという閉じた界を維持し続ける人柱、として。
フリードの公たる中枢、その上層たる政宮には、その日、歓喜と共に、困惑と混乱が巻き起こった。
長きに渡る王の座の空位により、都を覆う、抑制と誘導の識は薄まり続け、ここ一年は特に酷い様相であった。魔力を持った魔物の出現頻度の増加。都市最外層を越えての、意思ある魔物以外の存在の侵入。一部の個の強い者に対する制御の喪失。他都市からの悪意の流入。
挙げるときりがない。
たちの悪いことこの上ない。
半端に生きている都市の影響の力は、増え続ける問題を異常と思わせない。外の層の者ほど、その影響は顕著であり。一度悪化を始めると、後はもう、酷くなっていくばかり。
だから、官の中でも中枢に近い者たちは、座に就くという最終工程のみを頑なに行わない、王候補である女に、奏上を続けた。
その数も、個々の焦り様も、日に日にひどくなるばかりで、漸く、あの慎重で頑なで、しかしそんなもの今後は意味のない、王候補である女が、やっと、座に就いたのだ。
そして。
【世継ぎである彼の者を、この都の外に留学させる。行き先は彼の者しか知らぬ。我が王配すらその限りではない。事後報告であり通告である。既に、彼の者は、門を通じ、此の地に存在せぬ。】
紙片の鳥が、その身に宿して、伝えてきたその文言に、当然、宮は荒れに荒れた。
そんな日によりによって。
かの伝説に名を遺す魔物が再び降臨したと、伝わったとして。
当然、まともに伝達され、判断、考慮、される訳が無いのである。
フリードが今代までで断絶、つまり、人一人の寿命の後、言葉通り、終わるという危険性が濃く噴出したのだから。
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