第三十一話 術式なる幻影商人 Ⅰ
「どうしますツグ?」
「どうしますミツ?」
受付であるツグとミツは、ゴーレム擬態の姿のまま、機械染みた抑揚の無い音声で、意味のないこと問いを投げ返しながら、街を駆けていた。
受付の仕事の代わりすら用意することを放ったらかして、街の中を並んで走り回る、という意味のないことをしているのだから、焦燥振りは相当なものであるということである。
権限を持つのだから、せめて、街の内へ向かうなら、意味もある。露店ではなく自身の店が小さくとも持てるほど力ある商人や、Cランク以上の冒険者、貴族の次男坊や三男坊、資産家一族などが外を普通に歩いていて出会えるのだから。
ざざぁぁぁぁぁぁぁぁ!
ざざぁぁぁぁぁぁぁぁ!
二人は、急停止した。
それは、露店。深くローブのフードを被った商人。緑の厚手の、色褪せが見えるが、擦れや穴やほつれは無く、貧困な者特有のどうしようもない臭さも無い。
妙に印象に残っているその商人。コレクトルと共に、歩いていて偶々見つけた、その露店。あれから探しても、全く見つからなかったのに、
「店主。掘り出し物でもいわくつきの品でも構わないから、あるだけ見せて」
ツグはそう尋ねた。前コレクトルとそこで見繕ったときは、そんなことは言わなかった。コレクトルの左の瞳のことを、この階層レベルの人物に広げる訳にはいかなかったというのもあったが、あのエレメンタルナイフを購入した後、コレクトルが言っていたからだ。
『この人、ツグさんとミツさんの見分けがついてた。ナイフも属性が籠ってること分かってたと思う。それに、私の左目も……。多分……』
つまり、訳ありな人物である可能性があるということ。少なくとも、この階層レベルには収まらないクラスの人物であるということ。
「店主。売り物にならなそうなものでも構わない。できれば、魔物の素材、例えば、瞳、とかがありがたい。邪なるものでも、意思があるものでも、濁っていようが、魔力が籠っていれば、金に糸目は付けない」
ミツはそう、切り込んだ。
責任を誰よりも感じている。緑の瞳の魔力持つ人面樹の情報。自分が齎したそれから、奇運に見舞われるように、想定外の埒外が現れた。
自分だって勝てない。その戒めの全てを解いたとしても。ツグにも同じくそうしてもらって、二人で挑んでも。
伝説に等しい。
王。
魔物の王。
そもそも稀有な、魔力を持つ魔物。その中でも更に稀有。そして、それとの遭遇は、自然災害に等しい。
つまり、どうしようもない。遭ったらお終い。耐えるか。逃げるか。神の奇跡でも願うか、神に迫る冒険者Sランクに縋るしかない。
冒険者。そのランク制度は、都市ごとに異なっているが、Sランクだけは共通である。昇るための条件も、得られる特権も、与えられる義務も。
そのランクの存在意義は、自然災害の如く、神の名を冠ざす理不尽に立ち向かうこと。
斃すこと――ではないのだ。頂きたるそこに至ったとして、魔王と称されるような魔力持ちの魔物は、1対1で天秤は魔物側に傾くのが常なのだから。
「構いませぬ。お出ししましょう。但し、対価は、貴方方ではなく、エルフ・コレクトルに払って頂くことをお約束願います」
上品な老人の声。
そう思っていたものを、
ギュッ! バサッ!
「ミツっ!」
ツグが、そう、何してるの!? と言わんばかりに、声をあげた。
「信じても、善いのですね?」
ウォオゥウウンンンンンン!
紫の靄。それが果て無く広がって、見えない地面の上に立っている。太陽の光もない。街の風景は跡形も無い。
三人だけだ。
機械天使の姿のツグ。
機械天使の姿のミツ。
そして、人の形に膨らんで、中身が空で、緑の厚手の、色褪せが見えるが、擦れや穴やほつれは無く、貧困な者特有のどうしようもない臭さも無い、フードのついたローブが自立したもの。
「「貴方は?」」
「逸れしエルフの悲嘆と未来に現れる同類への救済を望む集合霊であります」
「ミツ! 謝りなさい!」
「っ! 申し訳、ございませんっ……!」
「では、誓約を打ち立ててください。エルフ・コレクトルが滅びの危機に瀕したとき、その側に立つ、と。破れば、不運に見舞われるでしょう。貴方たちが、無意識下で想像する、最悪を招き、現実にし、責を…―」
「「誓う!」」
「……。幾らでも変えてしまえる、誓約途中での捺印の言葉……。しかし、故に、貴方方は真摯に、エルフ・コレクトルを……。なれば、我らも示さねばならない。感謝と共に、信じ、これを託す。機械天使の神代の権能を、無作為にそれぞれに一つ、解! では、いずれ、また……」
紫の靄は消え、露店も、店主も、跡形もなく消えていた。
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