第二十九話 多層壁離塞都フリード 二
時間を少し遡って――人面樹の顔面樹皮という正体を現した丁度その頃。
ダールトン家、本家邸宅。石造りで、蔦の巻き付いた白い柱が並び立つ果て無く続く昼の庭。都たるフリードの外であるそこにて、
「何をしでかしてくれとる! 愚か者どもめぇぇ!」
ブゥオウウ、ドゴォオオオンンン! ガララララァァ!
腹に響くような圧のある重低音の後に、二つの人影がぶっ飛んで、柱にぶつかり、倒壊の砂埃をあげた。
「御止めください! ヴォルフ様っ!」
家令グレンが、そう声を荒げるが、
「貴様が付いていて、何という有様だ!」
褐色に日焼けした肌、浮き出た血管は穢れを吸ったかのように黒々しく、肌には、灼けや裂けの肉色の傷が痛々しく古くも新しくも混ざり合い、酷く目立つのだが、それを隠そうともしない。
丸太のような手足に、袖のない褪せた蒼の道着に、タール色の帯。大腿より下も剥き出しで。靴すら履いておらず、厚い皮で、裸足。黒々しく、そして、深爪。
毛は一切なく、ぎろりと目を見開いた、達磨のような形相。顔の筋肉による隆起が、人外染みている。
「申し訳、御座いません……。ですが……」
と、懐から取り出し、見せた八角で、縦に細く尖った水晶の首飾り。その色は黒々しく、濁りが内に篭り、漂っていた。
「甘かったというのか……」
「申し訳、ありません……」
「仕方があるまい。対策が対策として作用せんだ。閾値が意味を為さぬとは。まさに、忍び寄り、這い寄る如く。よって、定期での帰還を定めることとする。迎えはこちらから寄越す。毎度別の人員を。使い回さねば、問題なかろう。数だけは余りある」
仔細を詰める、家令グレンと、当主たるヴォルフ・ダールトン。そして、ひと段落ついたところで、
「お前たち、さっさと起きてこんかぁああああああ!」
と、薄くなってきた砂埃の方に向かって、咆哮のような叫び。
小さきマクスと、大ききポーロは、無言で、立ち上がった。
打撲痕はその顔面に浮かんでいるが、恐ろしいくらい、頑丈さを発揮しており、無事そうに。
そうやって皆立って揃って。
小さきマクス。大ききポーロ。家令グレン。当主ヴォルフ。
ヴォルフ・ダールトンは、大ききポーロよりも一回り大きかった。
「聞いておっただろう。もう良い。帰…―」
と、呆れと怒りの混ざった、投げやりの声での、ヴォルフ・ダールトンの締めくくりによって、場が降ろされることはなかった。
「グレンンンッッ! 用意をせい! あ奴が、蘇りよったぞ!」
遥か遠く。微かに見える、紅き光。その方向からはっきり感じ取った、嘗て討ち取った、人生において、最も強かった敵の魔力。それは、見紛う筈もない、【鬼呪蜻蜓】の魔力。
小さきマクスと、大ききポーロは青褪めながらも、声をあげた。
「「わたしたちも、行きます。いいや、連れていってください!」」
「言われずとも連れてゆくわ! 分かっておろうが、命を、賭けよ!」
「「当然! 我らの招いた厄故に!」」
まるで、騎士団長と騎士団員の宣誓の光景のような遣り取りだった。
そうして、翼のある馬三頭に引かれた馬車が、空を、駆けて、一目散に飛んでいった。件の事態の震源地へと。
馬一頭の小さな馬車が、地面を力強く蹴って、都たるフリードへと向かった。
そうして事態は、管理・制御できる事象ではなくなり、大事になり始めた。
多くが動き、事の裏側と、数多の思惑が見え隠れする、名の残る大事件へと至るのだから。
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