第二十七話 魔の瞳を求めて ~呪いの謂われの人面樹~ 九
蒼い魔力でできた、美しき黒き蒼の毛と体色。曲がり尖り、前面に突き出た、力強そうな、二股のモリのような真っ白な双角。
明るい蒼のオーラを纏い放ち続ける左眼は、背後からの眺めでもはっきり見える。
思っていたよりも、その体は小さい。
仔牛程度の大きさしかない。だが、角は成長しきっている。
飛んでくる樹木の枝の鞭のような打撃も、斬撃のような根の槍の折り重なるような連撃も、届く瞬間に、オーラがひときわ強く光輝いて、球のような障壁が薄蒼く張られ、消える。
その度に、左目のオーラの煌めきが減っていくのが分かる。
そう長くは持たないのだろう。
こちらを――向いていた。
鼻息を吐きながら、コレクトルへ言外に訴えてくる。
『早くしてよ』と。
はっとして、コレクトルはあの瞳を嵌めた。
赤黄色の煌めきが、強く、漂う。左の視界にしか見えないそれは、濃淡があった。その法則にコレクトルは気付く。憶えている、空から見た、敵の点在の位置と、濃い部分が一致していることに。薄いところは、きっと、そんな敵の分体の手足の届く位置だろうと予想がついた。
(どう……して……?)
流石に、疑いを飲み込み切れない。
だが、それでも、信じる以外に手はない。
コレクトルの目つきは、鋭くなった。真っすぐ、隻眼となった、怒り、暴れ狂い、自身の周囲を愚かしく粉砕している人面樹を見据えて。
蒼き光が、形作る。
それは、鐙に、手綱。
牛であるのに、まるで馬のように。
コレクトルは思った。
もしかして、この仔は、馬になりたかった? と。あの光景を身勝手に解釈して、間違っていた、ということだ。
そうなると、腑に落ちる。
具現化は置いておくとして。このように協力的なのも。
きっと、焦がれたのは、人を載せた、馬の駆け。
「ごめんなさいね。待たせちゃって。行き、ましょ!」
前脚が跳ね、躍動ある、疾走が始まった。
コレクトルが先ほどしていたそれを真似するかのように、樹木の幹を蹴り、足場にして、否、砕き倒しながら、ジグザグに前へと疾走してゆく。
コレクトルがしていたそれよりもずっと疾いそれは、コレクトルですら掠れなかったのだから、もう、追いつかない。諦めてもしたのか、途中で手は止む。
だが――
(集まって……る。中央に。あの人面樹……。味方を……喰……吸ってる……?)
地面が隆起し、吹きあがるように!
牛骨鬼の精は、コレクトルに手綱で指示されるまでもなく、踵を返し、距離を取り始める。
呑まれることも、吸われることもなく、コレクトルは、森の外へと到達するが、背後、森のあった場所には、ただの一本の巨木となった、隻眼の巨木が、聳え立ち、コレクトルを、鬼の形相で睨んでいた。
敷いた線の外側。先ほどまで激しい衝突なんてまるで嘘であるかのように、未だ消えておらず目の光の量にも余裕のある隻眼の牛骨鬼の精の背に跨ったまま、今回の守り役たる女冒険者アーミヤと話し込んでいた。
「――ということだ。アレに危険性は無いよ。ほら。ここにきても、キミに接近しようとしないのだから。キミが逃げるつもりがないと確信しているというのもあるのだろうけどね」
「まあ分かりましたが……、コレ、触れないんですか……?」
コレクトルが指差したのは、自身が乗っている、その牛骨鬼の精。魔力によって形成された、実体化した、隻眼の小柄な牛骨鬼。
「魔道具の中にはそういうのも存在してるから、想定の範囲内だね。キミがそうやって魔物の瞳嵌めて行使してることの方が遥かにレアで、想定外だよ。それ、試しただけで大概死ぬし、運がよくたって、一生、狂人、廃人だよ?」
「はぁ……」
「じゃ、私は引き続き観させて貰うから。頑張ってね。尤も、君が逃げようとしたなら、どう転ぶかは分からなくなる。アレは、魔力というものを存外本能で理解しているようだし」
そう、何か意味深なことを言われ、背を押される。
そうして、森が消え、荒野に現れた、巨大な樹となった隻眼の人面樹との最終決戦が始まった。
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