第二十五話 魔の瞳を求めて ~呪いの謂われの人面樹~ 七
シュ、ガッ、ガッ、ガッ、ガッ――
コレクトルは、樹木の幹を蹴りながら、ジグザグに、高速移動を繰り返しながら進んでゆく。数多の樹木の中に紛れている、ターゲットの分体たちの追撃は追いつかない。
そして。待ち伏せ、先読みするように置かれるように不意に仕掛けられる、根の刃。コレクトルは、目にもとまらぬ速さで、しかも、地面に足をついている訳でもない、進行方向の限定された足場を駆使しているというのに、それらに悉く触れない。通らない。迂回するように、ルートを組み、着実に、奥へと進んでゆく。
左目、のお蔭であった。
【鬼呪蜻蜓】。鬼蜻蜓と呼ばれる蜻蛉の中から現れた、魔力を持った、化け物。
羽も含め、本来人の手ほどの大きさしかない通常の個体とは異なり、それは人間並みの大きさであったという。全てを先読みして、見通すかの如く、脅威の回避能力に加え、回避にだけに留まらないその瞳は、魔力を持った赤い小さな瞳が無限に集合して一つの瞳を構成しているかのようで。
無数に、恐怖心を抱かせる魔法を、息切れなんてなく、ひたすらまき散らし、その上、その顎は、人間を装備の上から食いちぎる程に強靭であり、それは常に酷く餓えていたという。
ダールトン家の何代か前の当主が討ち取ったものであり、その剥製が残っていた。瞳は加工を受け付けず、禍々しくも沈黙し、腐ることも喰われることもなく、魔力を帯び、存在し続けたという。
コレクトルが前払いとして、貰ったものの一つがそれであった。
流石に、根っこの刃での攻撃の手数が増えてきた上に、踏み台にする樹木たちの幹から、棘やねばねばが抽出されるものが現れ始めていることにコレクトルは気付いていた。
(やっぱり、絡め手があの樹の流儀なんだ)
コレクトルは、前ではなく、上に進み始める。幹と幹を蹴って、上へ跳ね上がり、樹冠を越えて、跳び上がった。
『だいぶ習熟なさられましたが、万全でも保って、一分というところでしょう』
件のナイフをただ持っているだけの姿勢から、胸の前にしっかり構えて、二股の柄をそれぞれ握って、家令グレンに言われた言葉をコレクトルは思い出していた。
エレメンタルナイフ。
湾曲した二股の柄の先に、薄緑の刃が付いた、刃渡り50センチ程度の大降りなナイフであるそれは、魔道具としての性質を帯びていた。
家令グレンの見立てから、コレクトルはそれを練習した。刃から失われた分の魔力は、家令グレンが再装填してくれて。
フィィウウウウウウウ――
「っ!」
遥か下から、急に浮かび上がってくる、うねる機動の、初動の見えない、だから振り終わりの向きも定かではない、果てしなく長い、蔦の鞭。
エレメンタルナイフの魔力を消費し、風を圧縮して噴射し、辛うじて避ける。
刃の色から、緑が薄れる。刃先10センチ分くらいはもう、緑は抜けきって、灰色になってしまっている。
(空からの制圧は、無理……。時間が、保たない!)
コレクトルは予定を切り替えた。
エレメンタルナイフの柄を握るのを、片手だけにした。浮遊が為の魔力は止まり、落下が始まる。
くるくると回転しながら、樹冠に突っ込み、また、跳び上がって、見る。
左目で。
緑の魔力色。それを纏う、分体たちの存在位置。そして、そんな分体たちの密度が他と比べ濃い箇所を見つける。
コレクトルはそれを覚え、そして、エレメンタルナイフを、自分の下方、丁度、分体の一体であると判明した、コレクトルの接近に耐え、機を伺っていたらしいそれを、殺した。
緑の、風の暴威を含んだ、魔力の刃。一刀両断!
コレクトルは、そうやって、本当に唯の足場に成り果てたその亡骸の枝に着地し、枝から枝へと、下へ下って、走り出す。
位置は覚えたから、危険を承知で、突っ込むのである。
リソース切れの可能性を摘む代わりに、不利な真っ向勝負を選ばざるを得ない、と。
エレメンタルナイフのそれは、握りによって制御される。実はエルフたちにとって、千差万別で、言葉通り自分色に染め上げる愛用武器たるエレメンタルナイフは、持ち主ごとに、使い勝手も使い方も大きく異なる。偶々コレクトルは、風属性のナイフにした者のそれの使い方を知っていたし、他の者たちの多くのナイフの使い方も、ずっと見てきた。自分が持っていたのは、色のつかない、ただのデカいナイフでしかない、エレメンタルナイフという名の、大きな狩猟ナイフで、それ以上でもそれ以下でもなかった。
属性によって、こと戦いにおいて。魔力の使い方、複雑でなく、単純に収束するという前提なら、だいたいパターンは限定される。
風なら、空気の圧縮。それによる刃、もしくは、自他共に引き寄せ、押し出す玉という使い方が殆ど。
コレクトルは、時折エレメンタルナイフを強く握り、不可視の風の玉を発生させ、それによって、飛んでくる根の刃も、蔦の薙ぎ払うような鞭も、倒れてくる樹木による圧殺も、前後左右上下問わず、いなしていた。
刃よりも節約できる使い方で、ケチりながら、そして――遠く離れて、闇色と樹間の先に、小さく微かだが、確かに、光った、二つの、小さく、瓜のような、くすんだ、緑の光の残滓。けれども、先日より、明らかに――
コレクトルは、加速した。
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