第二十四話 魔の瞳を求めて ~呪いの謂われの人面樹~ 六
数日後。
天気は晴れ。
眼帯を付けていないコレクトルは、街から出て南、あの森の近くへと、独りでやってきた。
(やれることはやった。先払いで報酬まで貰って。手札も手数も手段も増やしてきた)
眼帯を外していたのは、迎え撃たれる可能性を考えてのこと。
しかし、森は、数十メートルという、自身が視界に入れるほどの距離へと近づいた訳だが、こちらを迎撃してくる気配はない。ひどく静かだった。まるで、眠っているような。夜の森でもあるまいに。
(ふぅ……)
予め聞いていた通り。
自分が引いた、森の周りを離れて一周するように引いた線。まだ、森は、その範囲の内に存在していた。目測、広がっているとはいえ。
そして、黄色い、革を広げたような分厚いテントが張ってある。その中に、今回の守り役を買って出てくれた人物がいるのだと聞いていた。
伺おうと、その入り口へと近づくと――
「わっ!」
「っ!」
コレクトルは尻餅をついた。
見知った顔が、楽しそうに笑っていた。それは、古ぼけた蔦の杖と新緑のローブを装備した、地面について少し垂れている長く真っすぐな髪の毛。眠たそうな目と高い鼻、青白い唇に青白い肌。痩せていて、薄く、猫背でいても高い背丈。土色な森の匂いを纏う、妙齢の女冒険者であった。
「アーミヤさん!」
「久しぶりだね、コレクトル」
テントの中に招き入れられ、入ってみると、
「ひ、広い?」
外から想像できるサイズでも内装でもない。
天井の高い大きなお屋敷の一室、といった風だった。白塗りの壁に張り巡らせられている木張りの壁面の骨組み。延々と咲き乱れ続いている白地に緑刺繍の蓮模様の光景の平らな天井。そして、床も天井と同じだった。
家具などはなく、物一つ無い、空き部屋といった、何のための場所か分からない奇妙なところになっていた。生活の痕跡が無いのだから。
「第一声がそれかい? まあ、驚いてはくれたからよしとしよう」
先ほどの子供っぽい悪戯のことか、この外見詐欺な空間のことか、コレクトルには分からなかった。
椅子も机も出されず、だからお茶も出されず、ぶらぶら、とその場で弧を描くようにゆっくり歩きながら、コレクトルに向かって女冒険者アーミヤは言う。
「さて。コレクトル。君は独りで外のアレを倒す。そういうことでいいのかい?」
「はい」
「何だか自信がありそうな素振りだねぇ。その瞳と関係があるのかい?」
コレクトルが付けてきていた瞳。それは、これまでとはまるで違っていた。
ザクロの実みたいな瞳。白目なんてない。全てが、赤い親指大程度の大きさの粒のようなものが集まって一つの目を形作っている。
「勿論です。こいつで、ヤツの全方位からの攻撃を捉え切って、懐に飛び込むんです」
「まさか、だねぇ。冒険者らしいっちゃらしいし、小細工弄するなんかよりも私は好きだけどさ。できる、の? コレクトル」
「腐ってもエルフですから。身躱しは得意ですよ? お墨付きも貰いましたし」
「なら、見せて貰おうか。一応、死にたてだったら蘇生くらいはさせてあげられるけど、損傷は手足の欠損程度までしか治せないからそれだけは気をつけておくれよ。一応、そうなったって君を無理やり生かして連れ帰らないといけないから、ダメそうなら、頭を潰されて死ぬことをお勧めするよ」
森の入口に立つ二人。
森は変わらず、沈黙を保っている。
「おとなしいもんだよ? 別に、私は脅してなんていないさ。もしかしたら、こいつには敵意なんて無いのかもしれないね。食欲と防衛本能だけかな、あるのは。君の調査の通りだったなら」
「ですかね?」
「そうだよ? だから、こいつの恐ろしいところは、未知である。その一点くらいだと思っておけばいいさ」
「まぁ。……。なんだかやけに推しますね。未知。誰だって最初は初めてじゃあないですか?」
「うぅん……。コレクトル。君は、アレが怖くないのかい?」
「怖がったって仕方ないですから。でも、何をしてくるか分からないって警戒はしているつもりです」
と、コレクトルは、腰からナイフを抜いた。それは、いつもとは違うナイフ。それは、湾曲した二股の柄の先に、薄緑の刃が付いた、刃渡り50センチ程度の大降りなナイフだった。
「魔道具、ねぇ」
「ただの狩猟用ナイフですよ。故郷の品なんですが、当時はこれが魔道具だなんて思いもよりませんでした。ですが、威力は折り紙付きです」
「僅かだが、風の魔力が込められているね。前も持ってきてたらよかったのに」
「手に入れたのは最近なんですよ」
と、愛想笑いのコレクトル。それを察してか、アーミヤはそれ以上そこをつつくことはなかった。
「分かっていると思うけれど、ちゃんと倒しきるまで、油断しないようにね。本体をバラして中までまさぐった訳じゃあないんだから」
「そもそも、本当に倒せたかどうか確かめる術もありませんけどね。やるなら、燃やす、とか、です? ……あっ……」
「くふふ。あはは。君は正直だねぇ。でも大丈夫だよ。それはとっくに試したよ。コイツが移動するにしても拡張していくにしても、その速度は未知数だったんだから。結果はあっけないものだったよ。燃えなかった。石を火で熱したような無意味な結果が横たわっただけ…―」
足元から、聳えた、数多の根の槍。
それを軽業師のように、高く跳ね、後ろ向きに宙返りしながら、アーミヤは森から距離をとって、着地して。
根の槍はコレクトルを捉えていなかった。気づけば、コレクトルは既に森の中へ、姿を消してゆく最中だった。
「流石にのんびりし過ぎなのかもしれないね。そんなに自信があるのかい? コレクトル」
と、アーミヤは涼しい顔して呟いていた。
丁度日が真上に来ていた。それは、日を好む樹木が最も活性的な時間。
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