第二十三話 魔の瞳を求めて ~呪いの謂われの人面樹~ 五
(無い……。記述なんて、一切……)
埃臭い。そして、黴臭い。倉庫のような場所であり、天井はそう高くはない。図書館、である。
「ゲホゲホッ……、……(少し、休もう……)」
さすがに、数時間程度なら問題ないが、半日もそこに閉じこもっていれば、咳き込み気味にはなる。
コレクトルは、重くなった腰を上げる。中腰になって、それらしいものを片っ端から目を通し、そのどれもこれもが、動物系の魔物についての記載ばかり。植物系の魔物で、しかも魔力を持っていて、意思をはっきりと持っている、群体型。そんなものは、稀も稀なのである。
門番に、肩を貸すかと申し出られる程、自身がぐったりしていたことに驚きつつ。外はもう夕焼け色だった。
貴重な半日、実質一日を無駄にしてしまった、とコレクトルの足取りはどんよりとしたものになる。
コレクトルは、取り調べの場所での、尋問を担当していた役人の言葉を思い出しながら、とぼとぼ、背を丸めて歩いていた。
『そもそも、受けない馬鹿などいるものか? 向上心を持つなら、昇級の機会何ぞ、滅多に無いことくらい、知っておろう!』
その言葉の意味を今、噛みしめている。用意できないような機会。それは、勿体ぶっている訳ではなくて、Cランクへの昇級試験に足る課題。どうして用意できないのか? それは、解決法が既知のものではなくて、けれども、Bランク以上であれば、きっと、何とかしてしまえる程度の問題。そんな程よい問題を、課題という形で、合否を判断できる形で、維持、確保……。確かにそれは、難題だ。
程々の未知への対応力。それを、実践として発揮できるかどうか。きっとそういうことなのだろうと、コレクトルは結論付けた。
本当に、見つけたアレが危険だったのなら、保留を許せない脅威だったなら、こうはならない。上が動いて、上位の冒険者などによる迅速な解決が図られるだろう。
危険度が許容の範疇で、程度の差があろうと既知であるなら、自分が前に受けたEランクへの昇級試験の討伐課題のような、調べて、準備をして、その上での実践という試験に使われるか、普通に依頼として消化される。
そもそも、いつの間にか自分がDランクになっていたことも、それを意識することなく自分はDランクだと提示していたことも、こうやって、立ち止まって考えてみると、恐ろしいものがある。
ギルドは考えることを要求するが、思考そのものが、素の自分の状態とは、何か、ズレてきている。より猪突猛進に、考えなしに、まず退くより進んでみる。今回のCランク昇格試験のこともそう。その対象となったあの人面樹の森へと躊躇なく飛び込んでしまったこともそう。あの貴族の子弟たちの依頼で大見得を切ったのもそう。
いつからだろう。
Dに、上がって、からだ……。そう、コレクトルが気づかない筈もない。そうして胸に抱える羽目になるのは疑念。
あの二人には悪意なんてまるでない。それでも、あの二人も、何か魔法が掛けられているのだとするのならば――
強く、頭を振った。疑い、たくなんてない。あの日の、裏路地の奴らと、ある意味同一視なんて、欠片もしたくなんてないのに――
そうして、着いた、二人が待つ家の前。
馬車が、止まっていた。見覚えのある馬車だ。
何か、嫌な気持ちが溢れてきそうになった。Dに上がってから、今まで、何もかも、まるで線を引かれた上を歩いていたかのように、上手く、いきすぎて、いる……。
まるで乱暴者がするかのように、がさつに扉を開け、
「お待ちしておりました。コレクトル様。おや? 何か、おありでしたか?」
燕尾服を着て、オールバックの、老齢ではあるが、真っすぐな背筋をしたダールトン家の家令グレンが、コレクトルを出迎えた。
「っ……」
別にそれ自体は驚くことではない。止めてあった馬車からして、想定の範疇だ。あの貴族子弟の二人もいる。ツグとミツと何やら、机の上に書面を並べて、真剣な面持ちで話を詰めている様子だった。
(怖……い……)
力は抜け、司会は歪み、潤み、ぼやけ、曇り、その場に崩れ落ちる。
意識は遠のいてゆき、声が、遠く、聞こえてくる。どうしてか、はっきり――
「コレクトル様! どうなさったのですか、コレクトル様!」
ガタン!
ドタドタッ
「「コレクトル様ぁぁ――っっ!」」
「医者の手配を」
「兄上、普通の医者じゃ駄目だ。眼のこともある」
どう――して――
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