第二十二話 魔の瞳を求めて ~呪いの謂われの人面樹~ 四
ドドドド、と、地響きのような音が迫ってくる。
ゴドッ、バララララッ!
扉が、吹き飛び、砕け散る音。
「こ、コレクトル様、ご無事ですか? ご無事ですね! よかっ、た……」
ごもった機械音声のような、しかし、聞き取りやすい、性別年齢不詳な奇妙な声にコレクトルは心底安堵した。
顔つきというものが無い、目や口は窪みでしかなく、鼻は穴のない突起に過ぎない、表情も変わらない筈なゴーレムの偽装の姿のままの筈なのに、そのなりで、激しく息をして、肩を激しく動かし、前屈みに顔を上げたさまが思い浮かんだ。
パラッ。
薄暗くも、眩い。左の視界に映る、ぼやけていながらも、蒼い――
「っ? ミツ、さん……? ……っ」
と思わず自身の口を紡ごうと、手を伸ばそうとして、縛られたままであるコレクトルは、バランスを崩し、椅子ごと受け身も取れずに転…―
「問題ありません。ここは底では無いのですから。それより、ご無理なららずに。コレクトル様」
と、倒れるコレクトルを椅子ごと、後ろから抱えるように、膝をついて支え、元の姿勢に戻す。そして、コレクトルを拘束するロープを、他愛なく引きちぎり、解いた。
「泣き出したいほど、恐ろしかったでしょう……」
そう、コレクトルを前から抱きしめた。
ミツは知っている。コレクトルの左目がこうなっている原因となる事件を。底辺同士の諍いだったから、不問に終わったそれを、ミツは、上からも、コレクトル自身の口からも聞いて知っているから。
声もなく、涙が流れる。コレクトルの瞳から。
そうして。
息ぜいぜいで追いかけてきて、随分遅れて戻ってきた役人は、いきなりコクに喝を入れるが如く、凄まれ、怒鳴られ、説教され、コレクトルの事情を知らなかった彼にとっては理不尽この上なかったが、役人故か、そういうのには慣れているようで。変わらず、態度は大きく、釈明一つなく、長ったらしいミツからの抗議が終わって、
「仕事をしただけだ。その証拠に、その女冒険者は傷一つ負わされていないだろう? 臭いで、分かるだろう? そういう行為も、行われてはいない」
すっかり整った息で、自信と威厳のある、尊大な役人のお偉いさん然とした、痩せて、白くて、目の隈の目立つ、中年の男はそう返した。
「それでは話を前へ進める。女冒険者。以後はその瞳、気を付けるように。事情を知らない者が見れば、全力で逃げるか、命懸けで討伐に挑むかの二つに一つだぞ?」
「申し訳……ありません……」
「今回の件、お前に不備はない。よくぞ迅速に報告してくれた。それも捜査も込みで。藪をつつかずに済んでおれば、なお良かったが」
「では!」
「面倒なことになった。お前の想像するどの方向でもない。一先ず、アレが街を襲う可能性は極めて低く、その時がもし訪れるにしても結構な猶予があるのは間違いない。余程長いこと放置でもしておいて、性質に大きな変化でも起こらない限り、と、お前の知らない報告も私は受けた」
「……」
ごくり。コレクトルは困惑する。確かに、訳が分からない、と。
「ツグではなく私が来たのも、その事情が絡んでおります」
「端的に言えば、アレは試金石にされることが決まった。お前がCに上がるかどうかの試験に、アレが使われるのだ。要するに、アレをお前の手で討伐しろ。そういうことだ」
「本当に急でしたので。ツグは準備につきっきりです。何せ、言われて気付けば貴方様はDラン…―いいえ、そんなことより。コレクトル様。如何いたします?」
「おい? 何を言う? そいつに選択権何ぞある筈がないだろう? そもそも、受けない馬鹿などいるものか? 向上心を持つなら、昇級の機会何ぞ、滅多に無いことくらい、知っておろう!」
「落ち着いてください」
間に入ったのは衛兵だった。役人の手を掴み、落ち着くよう促す。
「落ち着いておられるか! 泥から銅貨が生まれるのだ。そのような機会を不意にする何ぞ、国益を…―」
「ラーク様。御免っ!」
拳が、その役人の胴を突…―
キィィインンン!
現れた煌びやかな障壁。無駄に虹色に光り、主張の強い、障壁が、役人の腹部、衣装の前に、浮かび上がるように現れ、煌びきながら、衛兵の拳を遮っていた。
「……。煩わせたな……。もう、大丈夫だ。頭は冷えたよ……」
衛兵が手を引く。障壁は消えた。
「冒険者よ、悪いことは言わん。受けておけ。守り役も既に名乗り出ておる。お前の担当もせわしなく準備に奔走しておる。お膳立てされとるのだ。お前はそれだけ期待されておるということ。比較、Cへの試験としては…―……。Cへの試験としては安全を担保されておるといえる」
「そういうことですよ、コレクトル様。尤も、私としては、こんな大事になるとは微塵も思っていませんでしたが」
そう、無機質な筈なのに、可愛らしく微笑んだような仕草をしているように一瞬見えたミツが本当のことを口にしているのか、振り回されている今のコレクトルには分かり様が無かった。
それでも――
「やらせて、いただきます」
ぺこり、コレクトルは皆に頭を下げた。受けない理由は無いのである。
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