第二十一話 多層壁離塞都フリード 一
人間たちの都市の中でも、五本の指に入る巨大なる都であるフリード。しかし、その事実は殆どの者は知らない。
その城塞都市は、魔法が掛けられている。段階のある認証。そして、その者の存在としての強さ。いずれかが、段階のある制限を超えるごとに、見える範囲が広くなる。そういう都なのであり、最も外側しか見ることのできない者たちからすれば、フリードはドーナツ状の、中央には何もない、そんな都市にしか見えない。その中央というのは底知れぬ穴のようになっており、魔法によって、侵入を妨げる不可視の魔法の障壁が、名目上では落下防止、として張られている。
奇妙な損傷によって地形に凹凸がある場所というのはこの世界においてそう珍しいものではない。魔物が存在する世界であるし、そういった存在は、上澄みであれば、ある意味神にも等しい存在であったりする。尤も、その多くは、荒、や、悪、厄、といった冠を保持しているが。
よって、内側には、立場が高い者、実力で認められ上り詰めた者、、奉られた者、そして、それらの者たちの縁類で占められている。
コレクトルを尋問した役人は数ある層の中でも、より上位から下ってきていた。しかし、コレクトルに付与されている認証に気付かなかった訳である。
それが、冒険者に掛けられる、見込みを含んだ認証の実体であった。コレクトルは少なくとも、Dランクで止まる器では無い、と。
なら、誰が見込んだのか? ギルドの受付二人でもないし、ギルドの食堂の者でもない。コレクトルに掛ける認証の種類を決めた人物が他にいる、ということになる。
そしてこれは、その一部始終を示したものである。
フリード郊外。秘密の地下道。そこを歩き、進む一人の人物。古ぼけた蔦の杖と新緑のローブを装備した、地面について少し垂れている長く真っすぐな髪の毛。眠たそうな目と高い鼻、青白い唇に青白い肌。痩せていて、薄く、猫背でいても高い背丈。土色な森の匂いを纏う、妙齢の女冒険者である。指先に、灯を魔法で宿し、暗く、古ぼけた、朽ちかけた黄土色の煉瓦の地下道を薄く照らす。
そう。コレクトルと関わりのある、数少ない冒険者である。そして彼女こそが――
「ご足労頂き、感謝する。冒険者殿」
不意に姿を現した人物は、そのなりからして、高位の人物である。立場、が。深く被ったローブ。その布地は明らかに、滑らかで光沢があり、薄くはあるが、透けず。赤金糸の刺繍がさりげなく、けれども、淵の全体に施されたそのシルクの類のローブから明らかだった。顔は見えないが、背に曲がりはなく、姿勢は真っすぐである。
「時間が無いので本題に入る。掛けられし式によって稀に見る速度での昇級を認められたD級冒険者コレクトルの言うことだけあって、正しかった。幸いにも門番は恐怖を覚えつつも彼女の話の内容を覚えていた。街の南。森に点在するように出現した、人面樹の魔物。恐らくは軍団ではなく、一個体のみが意思を持ち他は手足な群体のような魔物。おびき寄せたり、待ち伏せしたり、そういった策を弄する程度の知恵を持つ。意思疎通ができるかは不明。人を食すかも不明。しかし、生息域、自身の分体をばらまくように拡大している可能性あり。その速度は不明。栄養不足か共食いか、そういった状態や性質を持つ可能性が高い」
「それは、どこからどこまでが冒険者殿の私見で?」
「私は後追いして追認したに過ぎない。彼女の粗方言う通りだったということだ。彼女が読み違えていたのは、それの進行速度はこの街に至るには数日どころか、数年は要するだろうということ。そして、人を優先的に狙う性質は持ち合わせていない、種類を選ばない貪食な魔物だということさ。自分の手足すら、失っても気づかないくらいに、無頓着のようだ。今のところ害は無いよ。けれど、そのうち、問題は起こるだろうね。広がり続ける森。入り込む者がいない訳もなく、ってね」
「成程。それで冒険者殿は、どうすればいいと?」
「彼女の仕事だろう。そう。冒険者コレクトルの。可愛い後輩の手柄を奪う柄じゃあないよ、私は。それに丁度良いと思う。Cへの試金石として」
「では、そのように。官史の一人がどうやら先走ったようでしたので、早急に止めるよう指示を飛ばしておきます」
「穏便にね。彼女はあの目を晒してしまうというミスを犯したのだから、役人は仕事をしただけだよ?」
「言われずとも」
「じゃ、私は戻るよ。一応、状況の変化が起きないとも限らないし、こういうときに余計なことをする者もいるものだからね。あぁ、そうだ。彼女、冒険者コレクトルがその左の眼窪に嵌めていた瞳に見覚えがあるんだよ。調べてみたんだけど、結構キナ臭い案件でね。私はそいつらが絡んでこないように、現場で今日から野宿で監視さ」
「?」
すると、
「こういうことさ」
女冒険者は、その指先の光を、目の前の人物の額へ向かってふわりと飛ばした。それは、記憶と意識を伝える魔法。
「っ! よりによって、領外の貴族案件ではないですか!」
「上に話を回しておいて欲しい。場合によっては、私も手を貸すよ。無料で。じゃ、頼んだよ」
と、踵を翻し、戻っていく二人。位の高い人物の戻っていく先は、都市の上位の区画。物事の意思決定や、冒険者のランクの管理など、そういったものを司る者たちの領域。そして、そこへと続く道を通ってこれたということは、その女冒険者のランクも、任されている役目や権限も、職域は違うとも、その位の高い人物に準じるということである。
コレクトルに掛けられた魔法。いつの間にか、彼女をDランクに勝手にしていて、彼女自身も、ギルドの人物たちも、彼女が昇格していたことに、まるで驚きも態度の変化も見せず、あまりに不自然なそれも含めて、その魔法は、言葉通り、認識を歪める力を持っている。それが持つ力の全てを知る者は、ほんの、一握り。コレクトルに魔法を掛けたギルドの受付ですら、その一握りには含まれていない。
(楽しみだよ、コレクトル。君はこちら側に来れるかどうか。力でも資質でもなく、全てを知った上で君がどう覚悟を示すか。昔の私を思い出すよ。だからこそ、本当に、楽しみだよ)
女冒険者は、軽い足取りで歩き続けている。嘗て自身が辿ってきた足跡を思い返しながら。
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