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第十九話 魔の瞳を求めて ~呪いの謂われの人面樹~ 二

 コレクトルは、眼帯を外しながら、瞳を、嵌めた。紅色に煌めく蛇なる瞳を。


 そして、意識することなく魔力の色が、見えていた。


 深緑色。そしてそれは、深く、周囲に…―


(っ!)


 跳ねた。


 周囲の木々を蹴り、跳び上がる。更に跳躍し、枝へ。更に、上の枝へ。そして、樹冠に達し、見下ろすと、


(同……じ……。そういうこと、ね……)


 想定外の光景が広がっていた。森に点在するように広がるそれ。数十ではきかない。数百に及ぶだろうか。


 双子とは違う。人や亜人のそれは限りなく同一であって、コピーではない。別々の存在である。が、木々のそれは人や亜人のものとは違い、同一のコピーを増やす方法で増殖することがある。配合ではない、複製。株分けである。エルフであるコレクトルはそれを知っていた。


 だが、それでは説明のつかないことがある。なら、連続しているのでなく、点在、なのか?


 簡単なことである。増えた後に、減った。


(おびき寄せられた、ということかしら……。それとも……)


 確証が持てなかった。たとえ、魔力の色が同じであったとしても、そこに意思が本当に一つしか存在しない、とは断定できない。こうやって、中心近くまでおびき寄せるというのを、一つの意思しか存在しない、分離した体も自由に動かせる者が行ったのか、年齢や成長具合の違う同一の存在のうち親玉たる者が他を従えてやったのか。


 コレクトルは、手札を切った。


 森全体を、薄く広く、その左目の視界に入る範囲、集中して、見た。力を込めた。


 蛇睨み。紅色の魔力露光が、昼の光の中、一瞬、強烈に煌めいた。


 ふらっ、と意識が飛びそうになるのに耐え、コレクトルは目玉を入れ替える。明るく青く染まった領域に、横長の黒き棒線のような光彩がくっきりと中央に浮かぶ、牛骨鬼の瞳へ。


 気分の悪さは、無い。


 ピスラズリのそれのように、明るく蒼く、澄んで、中央の、横長の黒き棒線のような光彩が、凛々しく、膨張した。蒼の中に、黄金の粉が、浮かび上がってくる。


 空を蹴った。樹間の枝へ足をつけたかと思うと、強く蹴り出して、また樹冠を越えて、空へ。繰り返す。そして、そのまま、森の終わりへと到達し、今度は、下の枝へと、蹴り、蹴り、折り、蹴り、折り、降りてゆき、一呼吸置くことすらなく、疾走。追ってくる存在に影すら踏ませない。


 森から軽く数十メートル離れ、立ち止まり、瞳を外し、熱を持った赤血色の蛇眼を嵌めた。


 振り向いて森の方を見ると、地面を抉るように、隆起し、根が疾走してきている。それが、繋がっている元があって射程が存在するのか、切り離された、やがて停止する死兵かは分からない。


 コレクトルはそれを、熱を持った左の瞳で灼こうとするが、


 ボウッ……。


 煙が小さくあがり、微かに焦げた形跡があるだけ。それの勢いは止まらない上に、嵌めた左目と接する置くが、疼くように痛む。


 不十分にしか発動できないというパターンとしては想定外、だが、効かない、止めきれない、なんていうこと自体は可能性として考えてはいた訳で、驚きと焦りは多少はありつつも、動ける。


 抜いたナイフ。


 それはどうしてか、異様な位高くて、踏ん張って、地面を蹴り出す足も、バカげたくらい力強くて、蹴った地面が吹き飛んで、その勢いを得て、自身の身体は、弾丸のように跳ぶ。だというのに、制御不能では決してなくて、真正面からぶつかりざまに、一閃。それは、拡張されて、刃の軌跡が拡張された風の刃のように。


 こちらへ向かってきていた、盛り上がった軌道を、逆に辿るように、果てまで切り裂いていくように――森と平野の境界を、吹き飛ばし、その風の刃は消滅した。


(残って……る……。そういうことも、できるのね)


 これまでそこまでは試せなかったコレクトルはそのとき初めて、瞳を入れ替えても、入れ替える前の瞳の魔法が残存することを知った。それに、その瞳の強化は、肉体だけでなく、自身が装備するものにも乗るのだということを。


 そしてもう一つ。瞳の輝きも。熱も。それらはひとえに、その瞳の残存魔力や御せている具合や調子を現しているのだと、把握した。


 単発で終わらず、入れ替えても動き続けられる程度に二つ目の瞳でる牛骨鬼の瞳を御したことと、底を見せる気配の無かった蛇眼をこれまでになく一発に力を込めて使ったことで。


 森はまだ存在している。追ってくる気配はない。先ほどの一撃は、その一割どころか、一分ける、いいや、一厘すら削れたか怪しい。


 取り敢えず、追っては来ないらしいことを、魔力の色を見れるようになったコレクトルはちゃんと確認していた。



 そもそも。樹木という不動の制約から完全に解き放てれていたのならば、発見から日を跨いでも、変わらすその場にいるなんてことはあり得ない訳で。より、独占的に、太陽の光を独占でき、栄養ある土を確保できるよう、動く筈なのだ。


 コレクトルは、瞳を付け替える。嵌める前に手に持った牛骨鬼の瞳は少し濁りを生じていたが、熱はほぼ無く、問題なさそうだったのもあって、コレクトルは一計を案じた。


(一応、これくらいはやっておきましょう)


 残っていた、残骸。無数の槍を地面から逆立てたような形状の、死兵から躯へと変わったそれを、十本ほど、折り、森の方を見ながら、森からの距離を保ちつつ、走る。地面にそれらの一本を、抉り当てるように。地面は派手に抉れており、少なくとも一度雨が降った程度では、それの痕跡は消えないだろうくらいに深々しく。


 やり終えて、多いと思っていたそれらの根の一本すら消費しきることはなかった。


 まだ日は十分に高いが、ピークはとうに過ぎている。コレクトルは、念のために、と、躯たる無数の地面から逆立つ根の躯を、蛇眼に入れ替えて、ひときわ強く念じて、一瞬意識が飛びそうになったが、消し炭にしてやれた。


(回復も、早くはなってる……)


 以前よりも、蛇眼の魔力回復量も魔力回復速度も上昇しており、必要なクールタイムも減少している上に、より無理が効くようになっていることに気づいた。


 あの宿を追い出されてから試せていなかったというのに、強力になっているのは果たして、本来必要な瞳たちを休める時間か、コレクトル自体の身体の魔物の眼への適用が目を嵌めていない間も進んでいたのか、いずれもありそうで、そのどれが正しいかも定かではない。


 ただ、瞳が、強くなっていることだけは、確かであった。


(……)



 不安を覚えるにいられる訳もない。常人であれば例外なく、それをやったら死ぬだろうことをやって、何故か生きている自分という唯一の適応?例。それが本当に適応かすらも定かではなく、変化が起こっていることだけは分かるという状態。


 明日どうなっているか、分からない、不安定で不確定な状態であり存在である自分という、直視しまっては、発狂しそうな恐怖。


 けれども、魔法という叶わない願いを、叶えてくれた奇跡そのものでもあり、だからこそ、こうやって、使っているのだと、コレクトル特有の理由が、コレクトルの精神を、平衡へ

と寄せる。


(……。でも、そうなるより前に、先が無くなるかもしれない。そんなのは、駄目よ……)


 再び瞳を、牛骨鬼のものに入れ替え、証たるそれらの根を持ち、左目から、黄金の混じった青い燐光を放ちつつ、走り出す。来た方角。人間たちの都、フリードの南の門へと。

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他にも色々描いてます。
長編から連載中のもの1つと完結済のもの2つを
ピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【連載中】魔法の家の落ちこぼれが、聖騎士叙勲を蹴ってまで、奇蹟を以て破滅の運命から誰かを救える魔法使いになろうとする話

【完結済】てさぐりあるき
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