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第十六話 割の良すぎる怪しい依頼 ~貴族の子息の護身術の稽古~ 四

「ぅ、うえぇぇぇぇ……」


 コレクトルは地面に四つん這いになり、吐いていた。


 耐えきれなかった。


 相当酷く、意識も半ば飛びそうな心地だった。


 コレクトルが悪い訳では決してない。


 彼らの説明から、抜けている部分があった。


 記憶を体験する。けれども、体験を味わうのは、コレクトルのその華奢な体である、ということであった。コレクトルが虚弱という訳ではないが、彼らと比べると、肉体的な強度は遥かに劣る訳で。


 別に、コレクトルの筋骨が、巨人の先祖返りである大きなポーロの体験を、そのまま体験する訳ではない。彼らのその能力による共有、というのは、感覚器への、再現刺激という形で行われる。


 筋骨に掛かる負荷も相当ではあるが、実際に圧が掛かる訳ではない。刺激のみである。つまり、きつかったのは何よりも、視界。


 自身の感覚を通して味わせられる、それは、左目に何も嵌めていないコレクトルが、ポーロの両目の主観視界を再現され味合わされた訳で。


 つまり、酔った。


 あまりに早い駆動。だというのに、次にどう体が視線が動くか分からないのに、強制的にそれを追わされる。脳による補正が追いつかず、ぐるぐるになる訳である。


「……。申し訳ない……。盲点だった……。俺ではなく、兄貴の視界で体験してもらったほうがよかっただろう……。小人とエルフなら、巨人よりはずっと、肉体的な性能は近い……」


 そう、本当に申し訳なさそうに謝罪される。


「わた……うぇぇ……」


 コレクトルはまともに言葉を返すことすらできない。


「この様子では、続きを、とはいかなさそうですね……。送迎させますので、今日のところはゆっくりお休みになってください。私たちが至らぬばかりに……申し訳、ありません……」


「……」


 弱々しく、コレクトルは、こくん、とだけ頷く。


 主である二人に言われるまでもなく、家令グレンは、馬車の準備を済ませていた。


 そこで、コレクトルの意識は一旦、飛ぶ。眠りにつくように。経験のない類の疲れ方により、気分の悪さよりも、意識に掛かる蓋の方が重かったのだ。


 家令グレンは、コレクトルをすぅっと浮遊させ、布にくるんで、馬車の中へすぅぅ、と降ろし、屋敷からあっという間に出ていった。






 ワシャワシャワシャワシャ、ゴシゴシゴシゴシ――


「――ということです。コレクトル様……」


 ツグが、そうやって、意識が戻ってされるが儘に気づいたコレクトルに、送り届けてくれた家令グレンから聞いた事のあらましをコレクトルに説明していた。


 されるが儘。


 コレクトルは、裸に剥かれて、泡に包まれ、二人に洗われているのである。


「次に繋がったのは良かったですが、今日はお祝いはお預けですね、コレクトル様……」


 ミツが、そうコレクトルをねぎらうように、しかし残念そうに言うのだった。


 浴槽のある、八方が青いタイルの部屋。四方節々にある小さな擦りガラスの小さな小さな窓から光が差し込んで、空間を照らしていた。


 その中央にある浴槽の中に、コレクトル。すぐ外に二人が立って、浴槽内へと身を乗り出して、湯は張っていない泡泡な浴槽の中でコレクトルの全身をわしゃわしゃ洗っている。


 足の先から頭髪の根元まで、全身くまなく。


 それが終わり、魔法で泡を全て払い流され、水を浴びてすらいないのに、身体にべとべとも吐瀉の臭いも、汗の油も、一切、無い。髪の毛はこれまでにない位にさらさらに、けれどしっかり乾いていた。


 あまりに心地よくて、コレクトルは未だ寝心地であって、二人の言ったことなんて、実は一切頭に入っていないが、二人はそれに気づいていないし、そもそも、伝わっているかどうかなんて気にしていない。


 機械天使たる彼女たちは、その種族的な傾向として、お世話、奉仕の趣向が強く見られるが、人間世界での彼女たちの扱われ方からして、あまりその趣向を前向きに、しかも自ら発揮したいと思って発揮できる機会は稀有であるのだから。


 そうしてコレクトルは、ふわりと立たされ、下着を着せられ、ガウンのような服を着さされ、ツグに抱きかかえられ、ミツがしっかりベッドメイクしたベッドへと、収められた。


 まどろみ気味だったコレクトトルの息は、すぐさま穏やかに深いものに変わる。そうして、すぴぃぃ、すぴぃぃ、と寝息を出し始める。


 そんなコレクトルを満足そうに、二人は、椅子まで持ってきて、傍でずっと、眺めているのだった。


 そうして。


 やがて、起きて、そして、はっと飛び起きて、傍の二人に状況を聞き、激しく狼狽え、後はご愛敬。


 二人の側かコレクトル。どちらの側がお礼をすべきか、こちらがすると互いに譲らず、長いこと、長いこと話し合ったのであった。


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他にも色々描いてます。
長編から連載中のもの1つと完結済のもの2つを
ピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【連載中】魔法の家の落ちこぼれが、聖騎士叙勲を蹴ってまで、奇蹟を以て破滅の運命から誰かを救える魔法使いになろうとする話

【完結済】てさぐりあるき
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