第十二話 瞳を纏う魔力の色は
ジュゥゥウゥ、
木目の映える木の家。そのキッチンは、その隅々まで、同じく木でできていた。
メイド服姿のコレクトルはフライパンを持ち、立っている。眼帯は付けておらず、左目の窪みには、紅の煌めき。
その瞳の焦点の先。フライパンの上に敷いた油が熱に灼かれ、音をたてる。
黄金色の卵の中身からできた、黄色の素敵な、厚みのある膜。それが素敵なのは、それが美味であることがわかりきっているから。
コレクトルは、それを、金属の尖った棒で、ぐしゅっと裂く。
ぐしゅっ。
つまり、それは、中身がそんなであることを示している。そんな音がするくらい、じゅくじゅくで、熱々で、ふわふわ。
その中身を、用意していた三枚の皿の端に、分けて、注ぐ。そして、切り分けておいた植物の葉を敷き、その上に、焼き色のついた、切り分けられた丸パンのスライスを載せる。そして、黄色のすてきなものの上に、ぐちゅっ、と赤い、酸味のある、ホイップな液体を添えた。
未だ湯気のあがるそれらの乗った三皿のうちの二皿を、それぞれ片手に持ち、メイド服姿のコレクトルは、颯爽と運んでゆく。
起こしに行くまでもなく、待ち人たちは既に席についていた。
「お待たせしました」
と、コレクトルは、それらを、赤と白のチェックのランチマットが敷かれた木のテーブル越しに、向かい合うように木の椅子に掛けた、二人の人物の前へと置く。
あまりに見掛けがそっくり過ぎて、区別がつかない二人。
「あらあらこれは、何とも美味しそうですね、お料理まで得意だなんて、コレクトル様」
「ネグリジェに続いて、そのメイド服もよく似合っていらっしゃいますね、コレクトル様」
全く同じにしか見えない顔が二つ。澄んだ、聞き取りやすい、人外ではなく人の類の美麗な気品のある女声は区別がつかないと思えるほど、同じような声であり、どちらが何を言ったのか、二人の位置をランダムに入れ替えてしまったら、もう判断がつかなそうな位。
金属色と光沢を持つ、左右対称で、高い鼻の、産毛も鼻毛も眉も睫毛も無い、上品で小さな顔立ち。上品に目を瞑り微笑みかしづく、削り出しのような髪の毛ではない、髪束の彫刻による、肌の金属色と同じ髪色。ぱっつんな前髪は、目の上で切り揃えられた簾のように。ある種類の鬢削ぎのように、後ろ髪はひたすらに長く、側髪は、耳を隠すように後ろに向けて、長くなる勾配のある簾のように。
「ありがとうございます。……、ええと……」
どっちがどっちか分からないのに、名前を呼ぶ訳にもいかないという。
「親でも分からなくなっておりましたし。ですが……」
「目印でも付けることとしましょうか。ですが……」
と、二人は顔を見合わせて、そして、
「「コクレクトル様。もしかして、魔力の色が、見えて、おりませんのでしょうか?」」
ぴったり重なった声と口調で、全く同一なことを口にしながら、コレクトルを見ながら、首を傾げていた。
コレクトルも自身の分を運んできて、用意されていた椅子に座り、机にかけ、少し冷めてしまった料理を口にしながら、
「一度できれば簡単ですよ、コレクトル様。一度ぎゅぅぅ、と目を瞑って、ゆっくりとお明けになってください」
「太陽が地平線の向こうから登り始めるのと同じくらいゆっくりと、ですよ」
そう言われ、食器を置いて、それをやり始めるコレクトル。
(二人は言わないけれど、この左目で、ってことよね。上手くいけば、何か違ったものが見えるってことなのかしら? でも、村で、そういうの、聞いたことがないけど……)
ぎゅうううう、と両目を閉じて、細く細く、開き始める。
「コレクトル様。もう少し力を込めてください」
「コレクトル様。もう一枚、なにか、開きそうな気がしませんか?」
「瞼の下に、もう一枚、ですよ。コレクトル様」
「コレクトル様。その瞳は魔力を含んでいるのですから、必ずありますよ」
(?)
「コレクトル様。三秒、数えさせていただきますよ。カウントが終われば――」
「いきますよ。ゼロ、と言い終わったら、ですよ。はいっ」
「三っ」
「二っ」
「一っ」
「「バチッ!」」
「えっ?」
コレクトルの左瞼の微かな間隙へ、二人がそれぞれコレクトルへ向けて身を乗り出してのばした片手の人差し指から、白い魔力の靄が、鋭く冷たく、コレクトルのその左瞼の下へ――
「っ! ちべたっ……! っ! !? 蒼と、藍?」
「蒼いわたくしがミツで御座いますよ、コレクトル様!」
「藍のわたくしがツグで御座いますよ、コレクトル様!」
と、全く同じ顔が、それぞれ、蒼の靄と、藍の靄を、瞳に輪郭として纏わせて嬉しそうに笑っていた。
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