第一話 嗜虐と奇運
エルフの少女、コレクトルは、人間たちの都、フリードの冒険者酒場の二本裏の路地、倉庫街に追い込まれていた。
空は灰色、降り注ぐ大粒の雨。しきりに鳴り響く雷鳴。唯でさえ少ない人通りは皆無であり、叫んだとしても声は聞こえはしない。
美しい、エルフである。十代中盤のような幼さと、未熟ながらも発達を感じさせる、正に美少女といった風な。フードのついた丈の長い深緑の年季の入った外套のフードはその頭から外れており、その顔は露わになっていた。ショートテイルに、毛先から根元に向かって、少し、くすっとしたウェイブがある髪の毛はエルフ特有の混じり気無い黄金色。エルフ特有の尖った耳。エルフ特有の白磁のような白く、荒れの無い肌は今は傷ついて、血を流していたり滲んでいたり。頬は桃色の艶を持つ。その艶は指の関節などにもみられる。
細くしなやかな長身。エルフの割には控えめな、しかし、全くない訳でもない胸部の厚みはローブの上からでも、つつましやか。
睫毛が薄く、けれども二重で釣り目の、目力の強い少女。それはこの危機のせいだけではない。現に恐怖に震え気味な今ですら、意思の強い目をしているといえるような目力の強さがある。頭もエルフらしく美形らしい特徴として小さい。鼻はエルフらしくそう高くはないが、小さく、整っている。唇は、小さく、薄い。だから、エルフの割に大人びた顔つきに見える。
そんな彼女であるが、その瞳。その右の色は灰色。エルフであるにも関わらず。皮肉なことに、覆いが薄い上に、大きな瞳であるから、よく見える。左目は――今は、潰えている。
彼女は覚悟した。自身の人生がここで終わることを。何一つ成すことができず、無為に終わることを。正面は行き止まり。未だ新鮮な血液交じりの液を、窪みと成り果てたばかりの左目だった場所から流しつつ。疼くそれを片手で覆い、抑え、耐え忍びつつ、残された右目で、後ろを振り返る。三人組の、古ぼけた外套を頭深くまで被った屈強で下品な男たちは、獲物を追い詰めたことで、外套を脱ぎ捨てた。
獲物である彼女の恐怖の顔を頭に刻み込むために。
「お嬢ちゃん、お上りさんのようだねぇ、げへへへへへ」
「おで、はやく、むきたい」
「薄幸そうなお嬢ちゃんですねぇ。しゅるる、そそる、そそりますよ」
下劣な山賊風のリーダーであろう男と、オーク系顔の知能が低そうな男、痩せた汚らしい男。そんな3人組が、一歩ずつ、のそり、のそり、とコレクトルへ向かって迫っていく。
そんないけない光景。だが、中世的暗黒的冒険的なこの世界のこの時代において、それはそんなに珍しくない光景だった。
がしっ、ぎゅぅぅぅ。
山賊男に片手で首根っこを掴まれたコレクトル。彼女はもはや、終わりを受け入れていた。だから、一切抵抗しない。きっと、ことが終われば、彼らはきっと、自身を終わらせてくれるだろうと分かっているから。
「お嬢ちゃん、あんた、エルフの中でも上玉だとは思うがよ、その左目の穴。それはないぜ。なぁ、お前ら」
それをやった下手人たちがそう言うなんて幾多もの皮肉に塗れている。
魔法の源である目を潰す。よくあるやり口だ。だが。エルフであるにも関わらず、魔法の使えないコレクトルに対してそのようなやり口が行使されたことそれ自体が特に。
エルフは生命力が強い。コレクトルも当然そうだった。痩せ男が山賊男に小さな袋から取り出した何かを手渡す。
それを手に掴んで、山賊男はコレクトルの右目の前にそれを曝す。
「穴は埋めねぇとなぁあああ! 形だけでも! これ、何ぁぁんだぁ?」
がらららららららららぁぁぁぁ!
雷が一際大きく光った。
照らし出される山賊男の手元である半人間の男が手にしているもの。それは――――瞳だった。人間のものでも、エルフのものでもないことは明らかな、邪な、弱弱しくも魔力を放った目。
「俺ぁ、魔物とのハーフでね。ゴブリンシャーマンとの。だから、ゴブリンの魔力持ちの目を、俺は使いこなすことができる。まぁ、俺に元からついてる目は、魔力が微弱過ぎて微妙なことしかできないが、この目なら、同族だから操れるし、最下級の一個上、下級魔法くらいは使える。基本的なものに限られるがなぁ。」
魔力には、魔力を以てしか抵抗できない。つまり、コレクトルには、それを持つその男たちに抵抗する術はない。
彼女はそれを見て、右目から涙を流す。
彼女の手足がぶらんと、力なく垂れた。それを見た山賊男は、彼女を地面に下ろす。彼女の心が折れたと認識して。抵抗されることはないと確信して。
「おおっと、そうだったな、お嬢ちゃん。あんた、エルフのくせに、魔法が使えないどころか、魔力無しだったな。ははははははははは。俺みたいな奴にも劣る、ゴミ、失敗作って訳だ。誇り高きエルフの恰好をした、見掛けだけのゴミ、か。で、その肉体は、内側までエルフしてるのかなぁ、ふはははははは。魔力無いってことは人間と変わらねぇかもしれねぇが、なら、オークの野郎がやっちまったらもうボロ雑巾か。リーダーと俺優先、最後にお前で。それでいいですよねぇ」
響き渡る高笑い。
そう。このエルフ少女、隻眼のエルフ少女コレクトルは、魔力を持たない、エルフという種として永遠の半人前を生まれながらに運命づけられた存在だった。
「酒場で聞いたときから、あんたは、美しくてつおいエルフから、薄幸で無力なエルフもどきになった、ってわけだ。魔法が使えないエルフなんて、エルフじゃねえかんなぁ。しっかし、半人前とはよく言ったもんだ。ガワは完全にエルフそのもんだからなぁ。その尖がった耳とか、整えられすぎた美貌とかなぁ。まあ、目の色は灰色で、魔力のまの字も感じられねぇけどよぉ」
「ぼぉす、話、ながい」
「リーダー、そろそろいいんじゃね? 早く剥いてしまってくださいよぉ。で、いただきましょうよ」
「ああ、そうだな。じゃあ、お前ら、引き続き、見張っとけ。当然、俺からといこうか」
カッ、ゴロロロロ。
山賊男は魔蛇の瞳をその辺に放りだして、息を荒げながら、彼女を押し倒し、馬乗りになり、身を覆うエルフローブを引き千切る。
ガサァァ、プツ、プツッ、プツン、ビリビリビリ……。
裂け目を開き、露わになる肌。白い白い、それでいて、ところどころ、桃色の肌。彼女の肌は、白と桃色、そして、黄金の産毛から成る。
先端の擦れを防ぐ薄い胸当てが剥がされ、露わになる、胸。大き過ぎず、小さすぎず、やや控えめ。この世界にブラジャーなんてないので、服の下はそれである。
降り注ぐ大粒の雨と、まばゆい雷によって、それはより艶やかに照らし出される。
そこに顔をうづくめようとした山賊男を、痩せた男が制止する。
「何だ……? お前、見張っとけって言ったじゃねえか」
「これ、忘れず嵌めてくださいよぉ。あの、虚ろな黒い穴。上玉とはいえ、これはきついでしょう。リーダー、気に食わなかったら私たちまで回ってきませんよね。縊っちゃいますよね」
トン。
彼女の胸と胸の間に置かれたそれを、仕方なさそうに山賊男は手に取った。
「お前、抑えとけ。捻じ込むからよぉ」
その瞳を掴んだ手は、彼女の下半身をまさぐり始めたので、痩せた男は大きめの声を上げた。
「そっちじゃないっ! リーダー、いい加減にして貰えませんかぁ? もう好き勝手させませぇぇん。貴方、私に戦闘力で負けてるんですから」
そう言って、山賊男の首筋にナイフを突き出すように当てていた。
仕方なさそうに、山賊男はしょげた目をしながら、邪蛇の瞳を彼女の左の窪みへと押し込んだ。
雷に打たれたかのような痛みを感じ、それまで人形のようになっていたコレクトルは激しく激しく痙攣した。
「まぁ、窪みのサイズより大きめだからしゃあねぇよなぁ……。はぁ。だから嫌だったんだよ、俺はよぉ」
「私はこれで満足ですよ。美少女は欠けていてはならない。それだと、儚げな美少女ではなく、儚い美少女ですからねぇ。これで、私の中の完成された儚げな美少女通りの美少女とことに及べる。ひひひひひ」
「お前、何言ってるかわかんねぇわ。それに、怖ぇ……。興冷めそうだから離れてくんね?」
山賊男がやるせなさそうにそう言うと、痩せた男は見張りへ戻っていった。
「さあて、戴くとしようか。里から出てきたばっかりらしいよなぁ。ってぇことは、初物だよなぁ、お嬢ちゃんは」
そう、息を荒くしながら、男は彼女のローブを上から下まで観音開きにした。手足の服は無傷で、胴体の服はびりびり観音開き。そんな恰好で、一切隠すことなく、彼女は隠すべき部位を外気に曝されていた。
そして、山賊風の男は、付き出した右手の人差し指を彼女の下半身に向かって延ばし、触れる――――ことはなかった。
ぴたり。
ギリギリギリ。
山賊男の指は、その入口僅か数ミリのところで、止まった。
「な、何を……し……た」
山賊男は震えながらそう言葉にする。彼女の全身から蛍でも湧き出ているかのように蛍光色の光が発せられていたから。
それは、魔力反応の光。魔法行使の際、例外なく、発せられる光。エルフとして魔力を持たない証である灰色の虹彩を持つ少女がそれを放ったのだから。
そして、男の手の震えは止まる。男の動きは止まる。そのままの状態で、かちんこちんに固まったかのように静止した。
ざっ、ざっ、びちゃん、びちゃん、びちゃん、ざっ、ざっ、――――トントン。
「遅かったですね、リーダぁあああああ……」
かちかちかちかち。振り向きざまに痩せ男は固まったかのように静止した。
当然、その少し前方にいた低能男も気付く。
「お、ば、え、だにを、じだぁぁぁぁ」
響き渡るような大声が、くすんだ黄色の光とともに発せられる。それは、竦ませの魔咆哮。低級ではあるが、魔力を持たないことが普通である人間や、微かな魔力しか持たない野生動物の類には確実に通る魔法である。
本来、この少女に通らないわけがないはずのもの。低能男は、何かあればそれを使うように指示されていてその通りにした。
これで終わり――――にはならない。今に限っては。今の彼女は、魔力を纏っている。邪蛇の魔力を。
少女は、痩せ男の懐からナイフを抜き出し、一目散に痩せ男へ向かっていく。自身の痴態などは気にすることなく。
そして――――ぷすっ、ザハァ、ブシャァァァァァ――――、バタン。
腹から喉元にかけて、突き上げられ、引き抜かれることにより、激しい勢いで血の海を作った低能男は、ぴくりと数度痙攣し、永遠に静止した。
彼女は依然として静止している痩せ男から服を剥ぎ取り、痩せ男と山賊男の静止を、手に握ったナイフによって永遠のものとして、しばらくその場で立ち尽くす。
光なき天を見上げて。
そして、痕跡は雨で流れ、全ては無かったことになる。
だが、唯一、少女にとってはそうではない。これは、少女にとっての天啓となった。魔力を手にする方法を見つけたのだから。
彼女は自身の引き裂かれた服の切れ端で眼帯を作り、顔に巻き、その場から立ち去った。
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