死にます
愛も恋もイマイチわからない私にとって、男から与えられる肯定はなんの薬にもならない。
「吸ってい?」
「ダメ、外」
「はいよ、と」
清楚っぽく、しかし、ニコ中毒の、下品な、男の足音が遠ざかっていく。時折、名前すら間違えてしまいそうになる有象無象の一人に、一瞥もやらず、
「ブラ踏んだら殺すから」
そう言い、先程までを忘れ、恥ずかしげも無く裸でスマホを弄る。
薬を頬張る様に、スマホの画面を貪り眺めた。彼女達にいいねを押し、足をバタバタさせながら、「今日も可愛い」と送り、見終えて、身体を反転させた。
男の蒸す音を聞いて、舌を打つ。
勤勉は必要無い、望まれる自分で無くてもいい。
静かな家の夜よりは心地は楽で瞼を下ろせた。
眼鏡をかける。どうせ捨てることになる弁当を仕舞う。壊されたくないスマホは机に置き、母に、ありがとう、行ってきます、と綺麗な笑顔を見せつけて家を出た。
野良猫におはよう、と言い、死にたいを頭の中で重ね重ね歩く。
ウィッグも無い、煙草の匂いも、お気に入りのリュックも、服も、何も無い、嗚咽だけは同じくある場所へ今日も向かう。
代われるものなら、代わってあげたい、ドラマの中で母から子へ向けた言葉を思い出していた。
そもそも、誰も変わってはくれないだろうし、もし代わってもらえるとしても、それは愛というものがある家庭であって、そうだとすれば、こんな地獄を味わっている自分の立場を与えさせたくないし、見せるのも嫌だ、それこそ死にたくなってしまわないか、なってしまうだろうな。
失笑し小石を蹴った。
「もう少し頑張れないか?」どうせ大学時代を遊び呆けていただけであろう教師の言葉を思い出し、親指の爪を噛んだ。
クソ女どもよりは勉強も運動も出来る、けれどそれは彼女達にとって目障りでしかない、かと言って、出来ないは両親にとっての汚点となる。その間を取ることの難しさを誰も理解出来ていない。だから、毎日死にたくなる。正直、友達と呼べて、薬にもなってくれる彼女達以外は全員死ねばいい。
車に轢かれる小石を眺め、赤信号を一瞥し、車が近くにないことを確認し、歪に笑い、歩き出した。
あわよくば運良く死にたい。
昔はよく考えた、どうして人を虐めるのか、自分が虐められた場合を考えてないのか、虐めだと思っていないのではないか。だけど、そんな事を考えたところで、第三者では無い自分にとって、何も変わることはなく、寧ろ、自尊心を失うだけでしかなかった。今変わらなければ意味はないし、今生きていく方法がないのなら意味はない。
信号を渡り終えてしまい、背後を通るトラックを視た。観て、覗いて、次の信号へ向かう。
『これ以上何も望むな、私が私を殺すぞ?』朝したツイートに送られてくるリプといいねを見るために家に帰る。その為に、今日もまたどうにか生きる。
トラックより、いっそ、あのクソ女どもに殺されてやろうか。
俯き、髪の下で声を殺して笑い、校門をくぐる。
「お、おはよう……ます」