2日目・3日目
「ぼくは、旅をしています」
翌日の23時に、また、スノウホワイトの男の子が訪ねてきました。粉雪が、のんびり空を降りていました。
「どこまで、行くの?」
訊きたいことは山ほどありましたし、何かしてあげられないか考えていましたが、男の子は、そっとしておいてほしそうでした。
「海を、目指しています」
「海? このあたりに、海はないと思う……。私も越してきたばかりで、そこまで詳しくないんだけど」
「そうですか」
ココアを3分の1残して、男の子は顔を上げました。
「弟たちに、謝らなければいけないのです。あの立派な鉄の船に乗るのは、ぼくだった、と」
「代わりに船に乗ってもらったの? 体を壊しちゃって出かけられなくなった、とか?」
男の子は、苦そうな笑みを浮かべました。
「そういうところです。ぼくが、怖がりだったせいでもあります」
「私にも、きょうだいがいるよ。妹が3人。7才と9才と11才。私なんかよりも、みんな頭が良くて、やることが早くて、根性があって……うらやましい」
「でも、仲良しなのでしょう?」
すぐに「うん」と言えました。ゆっくりな私を待っていてくれる、優しい妹たちです。
「ごちそうさまでした。贅沢できました。では、明日」
飲み終えたら、疾風のように去りました。男の子のカップにふれてみたら、まだ熱くて、手を引っこめてしまいました。
次の夜は、大ぶりな雪がせわしなく地面を濡らしていました。
「ぼくの弟は、9人いました。船に乗ったのは、4人でした」
「4人乗り、だったの?」
なみなみに入ったココアを、男の子は一気に飲みました。やけどしていないか、気が気でありませんでした。勉強が遅れていても、これでも私は、看護師のたまごです。放っておけないのです。
「5人は、ぼくより先にいなくなりました。お別れのあいさつもできないままに」
「…………ごめんなさい」
興味本位で訊いた私を、叱りたくなりました。
「よくあることです。お姉さんは、悪くありません」
「おとなだね。ちょっと立ち直れたかも」
「旅をしていると、練れてくるものです。贅沢なココアのように」
さようなら、と男の子は雪の中をさっさと行きました。温かいのか、冷たいのか、雪の妖精は、不思議な子でした。