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第64話 爆弾発言

 明応四年(一四九五年)八月。


 加賀国にて、畠山家と朝倉家が共同で一向一揆を挟撃している。戦いは大名連合軍が優勢だとボクに報告が届いている。破門された門徒なんて他所から援護してもえるはずがないし、当然の結果だろう。


 その他の地域はわりと平穏であったが、ボクの退屈な日々だけはあっさりと打ち破られてしまった。


 細川政元のせいである。


 今日の政元は白装束を身に纏ってボクの前に現れた。彼女の白装束はこれで三度目だが、今までの傾向からしてとんでもない爆弾発言があるのは分かっている。覚悟をせねばなるまい。


「右京大夫(細川政元)、何用であるか?」


「本日は公方様(足利義材)にお伝えしなければならないことが二つございます」


 爆弾が二発もあるのか。心してかかる必要があるな。


「遠慮なく申してみよ」


「京兆家の家督ですが、聡明丸(政元の養子)には継がせませぬ」


「ほう――」


 いつだったか、ボクは政元に嫡子について細川家中で話し合えと命じた。その結果が後継者変更になったようだ。


 まあ、細川の血が入っていない聡明丸くんを細川家のトップにするなんて、家中の人間が受け入れるのは難しいよね。


 後継者問題で細川家が分裂したら将軍家は困ってしまうから、ボクとしても好ましい結論だ。


「聡明丸に継がせないとなると、新たな養子を迎え入れるということか?」


「左様にございます。讃岐守(細川材春)の次男を養子に致します」


 材春くんの次男坊というと、今年六歳の子か。この子が細川澄元すみもとになるのだろうか? ボクの知識では判別が付かないのが残念である。


「よくぞ周りの言葉を聞き入れてくれた。して、聡明丸はどうする?」


「どこかの寺に入れるつもりではありますが、まだ決まってはおりませぬ」


「あー、ちょっと待て。寺に放り込むのはやめておけ」


 史実では、廃嫡されたことにより聡明丸が政元の暗殺を決心するのだ。家督が欲しければ力で奪い取る。室町人としては普通の考えではある。


 ボクとしては暗殺を阻止したいわけだから、聡明丸くんを雑に扱うのだけは勘弁して頂きたい。


「廃嫡するにしても、出家させずに新たな分家を立てたらどうだ? 余が後押しする」


「そう易々と分家を立てられるとは思えませぬが……」


 彼女の言う通りである。


 だが、将軍であるボクが力添えすれば何とでもなるはずだ。


「聡明丸が元服したあかつきには三河国(愛知県東部)の守護とする。だから、このまま武士として育てて欲しい」


「――何たる御厚情。そこまで引き立てて頂けるとは恐悦至極に存じます」


 京兆家の家督は継げなくとも、国持大名になれるのならば聡明丸も滅多なことを考えたりはしないだろう。これはこれで破格の待遇なのだから。


挿絵(By みてみん)


 問題は三河国が曰く付きの地ということだ。


 三河国は現在守護が不在である。応仁の乱以後、任命されていないのだ。守護がいないということで、三河は国人たちの群雄割拠状態となっている。


 応仁の乱では東軍の細川氏と、西軍の一色氏が三河にて激戦を繰り広げた。乱の途中で一色は東軍に鞍替えしたのだが、三河での戦いは続いた。その結果、細川側がぶち切れて守護職の辞表を叩きつけるわ、一色は大乱終結後に三河から撤収するわで守護が不在になってしまった。 


 その後、細川を守護に戻せば良かったのだが、幕府は誰も三河守護に任命しない。ぶち切れ辞任の心証が悪かったのか、それとも一色に配慮したのかは不明だ。そのまま現在に至っている。


 一番悪いのは長年放置している幕府です、はい。


 ボクとしては幕府の直轄地にしようとか考えたこともあるけど、三河武士を手懐けるのって難しそうな気がするから結局手を付けなかった。言い訳として、統治に失敗したら将軍の威信が下がってしまうから見送ったという感じである。


 細川家は三河と関わりがあるわけだから、なんとか上手く治めてくれるのではないかと期待をしたい。


「京兆家と聡明丸の話がまとまったところで、もう一つの話を聞こうか」


 跡継ぎの話は爆弾ではなかった。もう一つの方が、政元が白装束を着ている理由なのだろう。


 どんな爆発物が放り込まれても良いように、ボクは覚悟を決めた。


「それでは恥を忍んで公方様にお伝えします」


 政元が深々と頭を下げた。


 その彼女から出てきた言葉は、まさに爆弾級の衝撃を伴っていた。


「この腹に子が宿っております」


「……は?」

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