第60話 思わぬ黒幕
反乱の鎮圧は思いのほか早く終わった。
大和国の親基家派はすぐに音を上げて軍門に降ってきた。
河内の畠山基家くんはしばらく抵抗を続けていたが、完全に孤立無援となってしまってはどうにもならなかった。
十月三日。基家くんは幕府軍に降伏。彼自身が出家して今後政治に一切関わらないというのが降伏条件だったので、これにて数十年に及ぶ畠山家の家督争いは政長さんの勝利となった。長らく分裂していた畠山家がようやくまとまったのだ。
河内遠征の当初の目的が達成されたわけだが、まだ全てが片付いたわけではない。
畠山基家・大和の親基家派・山科本願寺の三者を裏で連携させていた黒幕がいる。ボクはそう推測して調査を命じた。すると、思わぬ人物が浮かび上がってきた。
前政所執事伊勢貞宗さんだ。
――予想外だ。いや、史実でもクーデターを起こす側だったのだから完全な予想外ではなかったが。
貞宗さんとは仲良くできていなかったけど、ボクは伊勢家を冷遇しなかった。息子の貞陸くんとはずっと連携していたわけだし、まさか貞宗さんがボクを引きずり下ろす動きをするなんて思いもよらなかった。人の心というものは本当に分からない。
家の権勢云々を差し引いても、貞宗さんはボクが将軍であるのが気に食わなかったのだろう。悲しいなあ。
こうなったからにはボクは彼を処断しなければならない。
「此度は我が父が非道なことを企てておりました。公方様(足利義材)がお怒りなのは重々承知しておりますが、お赦しを頂きたいとうございます」
貞宗さんの息子の伊勢貞陸くんが一条御所まで助命嘆願をしに訪れてきた。
今回の反乱の件を貞陸くんは一切知らなかったようだ。貞宗さんは息子には何も告げずにことを起こしたみたいである。
「頭を上げよ、伊勢守(伊勢貞陸)。余はそなたの父君を殺めるつもりはない」
畠山基家くんも本願寺実如も殺していないわけだし、貞宗さんだけを厳しく罰するのもおかしな話だ。彼らと同じくらいにしないとね。
「流罪に処す。息子であるそなたの働き次第で赦免を考える」
「多大な御慈悲を頂きまして、真に有り難き幸せに存じます」
「ということだから、まずは山城の国人衆を早く恭順させるように」
「ははっ。速やかに対処致しまする」
こう言っておけば、貞陸くんもより一層頑張って働いてくれるでしょう。
これで今回の反乱は全て片付いた。明応の政変が発生するのを防いで、ボクは将軍の座を守った。また以前と変わらない都での生活が戻ってくる。
と思っていたのだが、もう一つ大きな出来事が待ち受けていたのだった。




