第56話 河内へ
明応二年(一四九三年)七月八日。予定通り河内遠征が始まった。
今川家の遠江侵略という懸念事項が先月に発生したが、ボクの叱責一つで兵を退いてくれた。畠山基家くんもこのくらい素直に諦めてくれれば、ボクが出陣する必要なんてなくなるのに。
今回の出陣は前回までより兵数が少ない。都から河内に向かうのは奉公衆だけなのである。
細川政元が不在ということで細川家は不参加だ。細川の兵は京の都の守備を任せている。結局、丹波に下向した政元とは一度も連絡を取っていない。
京都の守りを細川だけに頼っていると、政元が謀反を企てた場合にあっさり都を制圧されてしまう。念のために京極家と土岐家の軍勢を呼び寄せて抑止力にしてはある。
さて、今回の合戦の主力は畠山家だ。長らく分裂状態だったが、畠山政長さんがここに来て家中をほぼまとめ上げた。彼とは河内で現地合流する予定である。兵数は五千人ほど率いているとのことだ。
ちなみに、今回の遠征に際して政長さんもボクに一千貫文(およそ一億円)を献上してくれた。長い内紛をやっているのに、畠山家は結構資金を持っているようである。少なくとも将軍家よりはお金持ちだ。うらやましい。
あとは大和国の親政長派も参戦予定だ。こちらは二千人程度の兵数だと聞いている。
細川家が不参加ながら、合計すると幕府軍は相当な規模の兵力となる。
対する畠山基家くんの方は、家臣の大半に見放されてしまい、兵数も勢力圏も激減してしまっている。現在は高屋城(大阪府羽曳野市)に立てこもっているとの情報が入ってきているが、実際のところは分からない。
ボクは何度も彼に降伏勧告を出したのだが、完全に無視されている。普通に戦えば、ほぼ間違いなく幕府軍に蹂躙されるはずなのに。
圧倒的に不利な状況でありながらなおも抗戦を続けるということは、基家くんは何か逆転の手立てを持っているのかもしれない。
一応、密偵を放って何か怪しい動きはないか探ってはいるけれども、特に何かを企んでいるような話は今のところ掴めていない。
基家くんは勝ち目がないということを理解した上で、決戦に臨もうとしているという可能性もある。彼も武士なわけだし、玉砕上等とばかりに挑んでくるのかもしれない。
色々なことを想定したが、一番最悪なのは畠山基家くんと細川政元が裏で繋がっているということだ。これが成立してしまっているとクーデター不可避である。
調べに調べまくって、お互いの間に密約は結ばれていなさそうということは確認した。もしもそんな疑いがあったら、ボクは河内遠征を中止していた。
未来知識があるせいで余計な心配が増えている。できることは思いつく限りやったはずだから、政変は起きないと思うんだけどね。




