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第51話 対面

 八月に入って、長光寺城と箕作山城が相次いで降伏をしてきた。両城は六角の反撃作戦のためにわざと残されていたとのことだ。その反撃が失敗に終わったことで素直に諦めてくれたようだ。


 これにより、六角の勢力範囲は甲賀郡とその近辺だけとなった。


 幕府軍は甲賀郡へ進軍を開始。山間部で大軍を展開するのは難しいものの、敵の拠点を次々に攻略していく。六角勢は今までの戦いで戦力が疲弊しているようで、それほど抵抗はなかった。


 十月。甲賀郡の半分以上を制圧完了。六角のゲリラ戦術に悩ませられたが、それでも幕府軍が勝ち続けている。


 年が明けて明応二年(一四九三年)正月。甲賀郡のほぼ全てを幕府軍が占領した。


 しかし六角行高の消息は、ようとして掴めなかった。捜索を命じたが成果は一向に上がらない。


 二月。思わぬ所で六角行高が発見された。


「これより対面を始めまする」


 奏者が宣言をした。


「うむ」


 ボクは作法に従い、太刀に手をかけて右方に構える。


 時を同じくして、陣幕の外から首板に乗せられた首級が運ばれてきた。


「六角大膳大夫(六角行高)にございます。討ち取ったのは伊勢国鈴鹿郡の――」


 奏者が朗々と述べていく。


 そうなのである。今現在、六角行高の首級の検分をしているのだ。


 近江での戦いに敗れた彼は、伊勢国に落ち延びていた。その逃避行の途上で落ち武者狩りに襲われて命を落としてしまった。


「大膳大夫で相違ないな?」


 左目の端で首級を見ながら、ボクは奏者に尋ねた。行高と面識がないので他人に本人確認を任せるしかない。


「間違いありませぬ。大膳大夫にございます」


「そうであるか――」


 ボクは作法の型を一通り済ませて、六角行高の首級に手を合わせた。敵として戦うことになったが、特に恨みとかがあったわけではない。ただ、立場上放置できなかっただけだ。


 これで幕府軍の完全勝利となった。


 六角家は大名の座から転げ落ち、近江は細川京兆家の分国となる。他に参陣した京極・土岐・北畠・一色・仁木の諸大名にはそれぞれの働きに応じた褒美を与えることにする。


 ボクの持つ歴史知識では、織田信長が上洛作戦を行った時、南近江は六角家の勢力範囲だったはずだ。歴史が変わってしまっているのか、それともやはり歴史通りの流れでこの後六角が復活を遂げるのか。ボクでは判断ができない。


 分からないものを考えていても仕方がない。ここはひとまず勝利の美酒に酔いしれよう。


「よし、都へ凱旋だ!」

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