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第44話 日野川の戦い①

 六月十八日。


 北東の方角から六角勢が近付いてきた。こちらが予想していた通り、三上城救援の兵を出してきたのだ。


 その数、およそ一万人だと耳に聞こえてきているが、さすがにその数字を信じる気にはなれない。大軍に見せかけるために敵が吹聴しているだろう。実際はその半分がせいぜいだろうと思っている。


 当主である六角行高も出陣しているとの情報もボクの耳に届いている。ここが決戦の地となりそうだ。


 幕府軍は三上城を包囲したままで、主力を北東に移動させた。日野川を挟んで敵軍と対峙する。


 この辺りは広い平野地帯だ。川と湿地くらいしか自然の要害が存在せず、小細工なしのぶつかりあいとなるだろう。つまり、兵数の多い方が圧倒的に有利となる。


 幕府軍は三上城への抑えに一部の兵を割いているが、六角より多い兵数を決戦の地に配置できている。普通に戦えば勝利が見えてくるはずだ。


挿絵(By みてみん)


 懸念事項が一つある。


 ボクの体調だ。細川政元からもらった薬が効いたのか具合はかなり良くなっている。ただし、本調子ではない。可能なら横になって休んでいたいくらいだ。総大将である以上、そんなことはできないわけだが。


 とにかく倒れたりしないようにしたい。陀羅尼助の効用に期待する。


「公方様、敵方が川を渡って攻め込んで参りました!」


「向こうから攻めてきおったか」


 およそ正午ごろ。六角の攻撃で戦いが開始された。


「戦場で何が起こったのか、つぶさに余へ伝えるのだぞ」


 ボクは鈎で待機中だ。最前線の情報を集めるよう心がけねばならない。


 政元は三上城の東にある小高い山に陣を構えている。彼女の方が前線に近い位置で指揮を執っているのだ。


 総大将のボクも見晴らしの良い高所で戦況を見守りたいのだけど、手頃な場所がこの辺りにない。というわけで鈎に滞陣しているのだ。


 戦闘が始まってから、続々とボクの元に情報が届き始める。やはり数に勝る幕府軍が優勢であるようだ。


「……何もないのか?」


 ボクは誰にも聞こえないように呟いた。


 寡兵であるはずの六角軍が真正面から攻撃を仕掛けてきているのである。何か奇策を用意していると思っていたのだが。


 そう考えていた時だった。六角の動きがボクに報告された。


「物見によると敵方の兵が辰巳(南東)へ動いているとのことです」


「辰巳だと?」


 ボクは地図に目を落とした。


 敵が何を狙っているのか。考えてみても思い浮かばない。


 仕方がないので、奉公衆に尋ねてみることにした。


「六角の意図が分かるか? 余は全く思い当たらぬ」


「正直分かりかねます。特に何かがあるわけではございませんし。兵を集めて立て直しをはかっているのかもしれませぬ」


「やはりそれくらいしか考えられないか……」


「強いて言えば、右京大夫殿の陣があるくらいでしょうか」


「余たちは右京大夫の居所を知っておるが、敵は知らぬからな。さすがに右京大夫を狙うのは無理だろう」


「左様にございますな」


 そんなことを話していると、また新たな情報が届いた。


「六角方に動きがございます。集まっていた六角勢がさらに辰巳の方へ向かっている模様」


 集めた兵で総攻撃を仕掛けてきたようである。


 まさか本当に政元を狙っているのか? 敵がここから前進するとなると、彼女の本陣を狙うことも可能になる。


 普通に考えたら偶然だ。しかし、つい先日に政元の陣が奇襲されたばかりである。そんな都合の良い偶然が立て続けに起こるだろうか。


 考えていても仕方ない。ボクは行動することにした。


「各将へ伝令を出せ。右京大夫を守れと」


 ボクの指示に周りがざわつく。


「右京大夫殿の首級は狙えぬはずなのでは?」


「この辺りに山は一つしかない。そこに大将が陣取っていると当て推量で敵が攻めてきておるのかもしれぬ」


 敵の狙いはさっぱり分からない。


 確かなのは、政元の方へ敵が向かっているということだ。


「余も出るぞ。奉公衆よ、ついて参れ!」

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