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第42話 体調不良

 三上城。妙光寺みょうこうじ山の山上に築かれた山城である。


 近江富士と呼ばれる三上山ではなく、すぐ北にある別の山に築城されているのに「三上城」というのは少々紛らわしい。


 ともあれ、幕府軍は三上城の包囲に動いている。


 今日は六月十五日。三上城が六角方に寝返った翌日だ。昨日は細川政元を包囲した六角方であったが、一日経った今では逆に包囲される憂き目に遭っている。


「公方様(足利義材)、三上城の囲いがほぼ終わったようです」


 葉室光忠が鈎の陣に滞在しているボクに報告をしてくる。


 側近の彼は今回の遠征でも従軍している。昨日のボクの急な飛び出しには付いてこれなかったが、日が暮れる前にはきちんと追いついてくれた。


「将兵の様子はどうだ?」


 ボクは光忠に尋ねてみた。


「奉公衆にはさすがに疲れが見えます」


「余が昨日散々振り回したからな。致し方あるまい」


「昨日のような無茶は二度となさらないようお願いいたします。御身にもしものことが起こったら一大事なのですから」


「反省しておる」


 二度とやらないとは言わない。今後も似たような事態があったら同じことをするつもりだ。


「奉公衆は疲れておりますが、細川方は意気揚々のようです。公方様や右京大夫(細川政元)殿の命を待たず勝手に城攻めを始めかねないくらいに」


「あれだけ激しく戦った直後だというのに、たいしたものであるな――」


 昨日の攻撃で細川軍には多数の死傷者が出た。復讐を遂げたいのだろう。室町人の気質として、やられたらその分やり返すという特徴がある。今回の件では三上城の城主や重臣を殺すまで収まらないかもしれない。


「気持ちは分かるが、ここは抑えてもらわねばならぬ。今は力を蓄えておく時ぞ」


「右京大夫殿にもあらためて伝えておきましょう」


 ボクと政元が今朝方に話し合った作戦では、三上城を包囲するだけで力攻めはしないと決まっている。


 三上城を囮にして、六角軍の主力をおびき寄せる予定なのだ。


 主従関係というものは、家臣が一方的に主君を支えるというわけではない。家臣が危機に陥った時、主君は助けなければならないという義務がある。


 というわけで、三上城が包囲されてしまったからには、六角行高は援軍を出さざるを得ない。万が一、何もしなかったら六角家は自壊してしまう。


 その六角の援軍を幕府軍が迎撃するという計画なのだ。


 近江遠征の行方を左右する決戦となるに違いない。


 大きな戦いが目前に迫っているのだが、実は幕府軍に少し問題が発生している。


「公方様、顔色が優れぬようですが?」


「昨日の疲れが抜けきっていないようでな」


「ならば、本日はゆっくりとご静養くださいませ」


「そうさせてもらおう」


 実は、総大将であるボクの体調がよろしくないのである。全身に倦怠感と悪寒がある。おそらく、昨日の矢傷からウイルスが体に侵入してきて、熱が出ているのだろう。


 戦場でボクが病気だと知られてしまうと全軍の士気に関わってしまう。だから味方にも気付かれないように、やせ我慢をしている最中だ。


 しかし、光忠に顔色のことを指摘されてしまった。半頬はんぼお(頬から顎の部分を守る防具)でも付けて隠そうか。


 ボクがそんなことを考えている最中も光忠は話を続ける。


「そうそう、宗益入道なる僧について調べて参りましたぞ」


「早いな。単なる興味だから急がずとも良かったのに」


「頼まれ事と銭払いは速やかに行う。周りから信じてもらう秘訣にございます」


「うむ、お主のような者を側に置いておいて良かった」


 光忠が宗益のことを説明し始めた。


 澤蔵軒たくぞうけん宗益。これは法名で、俗名は赤沢朝常あかざわともつね。年齢は数えで四十二歳。


 元々は信濃国の国人であったが、家督を息子に譲って上洛した。


 上洛後、弓と鷹狩りの技術を細川政元に買われて登用されることになる。そして、政元の下で実力をおおいに発揮しているとのことだ。


「なるほど。身分を気にしない右京大夫らしいやり方よの」


 徹底した実力主義。丹波の上原親子もそうだったが、政元の家臣起用方針が見て取れる。


「それ故に家中で軋轢もあるようですが」


 光忠が髭をいじりながら言ってくる。


 ポッと出の人間を重用したらそうなるよね。実力採用は素晴らしいことなんだけど、旧臣の気持ちという奴も政元は考えて欲しい。


「昨日、とんでもない武功を余の眼前で披露してくれた。是非とも褒美を贈りたい。宗益入道を呼んで参れ」


「御意。政所と相談もしておきます」


 細川家からもらった大金があるものの、財政事情は結構ギリギリなんです。早くこの貧乏状態から脱したいものです。

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