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第28話 須知城を攻略せよ①

 進軍は順調に進んでいる。一揆勢の抵抗が数回あったものの、撃退に成功した。迎撃したのは細川家の軍勢で、ボクや奉公衆は報告を聞いたのみだが。


 篠村八幡宮を後にした我々は丹波国を北上、須知しゅうち城(京都府船井郡京丹波町)の眼前まで到達した。


 この須知城と、もう少し北方にある位田城の二つが一揆勢の中心地である。


 須知城は小高い山に築かれた城だ。比高は二百メートル程度だろうか。尾根上に多数の曲輪が備えてあり、遠くから見ても堅城だと分かる。


 城内に詰めている一揆衆の士気は全く下がっていないようだ。細川の大軍で支城との連絡を断ち切ったというのに。兵力差で戦意を失って降伏してくれれば有り難いと思っていたのだが、考えが甘かった。


 仕方がないので、ここを攻め落とすための評定を開くことにした。


 今現在、ボクは須知城から少し離れた寺院に逗留している。ここに奉公衆と細川家の諸将を呼んだ。


「昨年は苦労致しましたが、我らは須知城を落城させました。その時の方策があります故に此度は容易く落とせますぞ。明朝にでも攻め込みましょう」


 真っ先に発言をしたのは上原賢家さん。丹波国の前守護代である。いくつもの武功を挙げている人で、いかにも歴戦の武人という風貌の人だ。


 対して、細川家の諸将がすぐさま反論をする。


「豊前守殿(上原賢家)、しばし待たれよ。無理攻めをして、いたずらに兵を損耗させるのはいかがなものか」


「然り。昨年も多くの死者を出したではないか。ここは支城を順に落として須知を孤立させるのが上策かと」


「我らが麦を刈り取ってしまえば、連中は飢えて長くは籠城できまい。慌てて攻めることもなかろう」


 慎重策を唱える人も多いようだ。去年の戦いで相当な抵抗を受けたのだろう。


 そんな中、積極的に攻めるべしという意見も出てくる。


「各々方、あまり悠長に構えるのはよろしからぬかと。昨年に位田城を落とせなかったことで、細川の力が軽く見られております。須知城と位田城を鎧袖一触と平らげて汚名をそそぐべきと言わせて頂く所存」


 弁をふるうのは上原元秀さん。賢家さんの息子で、現在の丹波国守護代だ。この人もお父さんに似ていて、いかめしい面構えである。


 国人一揆を早期鎮圧しないと後々の統治に影響が出てしまうのだろう。丹波の守護代である上原親子が強攻策を主張する事情は理解できる。


 上原親子に賛同する者もそこそこいるようで、細川家中は強攻策と慎重策の人数がちょうど半分といった感じだ。


 強行策を採用したら人的被害が大きくなる。慎重策だと万を超える兵たちの兵糧が問題になる。どちらも一長一短だ。


 同席している奉公衆の面々に、ボクは意見を求めた。


「ここまで一戦もせずに、ただただ眺めているのみだったので、血が騒いでおります。須知城を攻めて、我らが武名を轟かせとうございます」


 奉公衆たちは強攻策が大勢のようだ。従軍しているのに戦闘へ参加できないフラストレーションが溜まっているのだろう。ここは彼らの希望に添うべきかもしれない。


 奉公衆が味方に付いたということで、元秀さんが勢いづく。


「せっかく公方様(足利義材)が丹波までお越しになっておられるのですから、我らが戦い振りをご覧になって頂きましょう」


 だんだんと強攻策が採用されそうな雰囲気になってきた。


「右京大夫(細川政元)、須知城を攻めるということで良いか?」


 ボクは政元に話を振った。彼女はこの評定でまだ言葉を発していない。


 今の彼女は諸将と同様に胴丸を身に着けていて、喉輪で喉元を自然に隠している。直垂姿の時とは違い、ごくごく普通な格好である。


「――奉公衆の思いを無碍にするわけには参りませぬ。須知城を攻めましょう」


 政元が物憂げに口を開いた。本心は慎重策にしたかったように見えるが、この場の雰囲気に同調したみたいである。


 ただ、気になることを彼女が付け足した。


「すぐにでも攻めかかりたいところではありますが、まだ城攻めの支度が整っておりませぬ故に、数日お待ち下さいませ」


「支度ができておらぬだと?」


「ワシとしては無理攻めを考えておりませんでした。すぐに雲梯うんてい発石木はっせききをこしらえさせます」


 大きく重い攻城兵器をわざわざ担いで運ぶなんて非効率的だ。現地で作るという考え方は正しい。


 それにしても、敵城を目の前にしているこの時点でまだ準備をしていないというのは不可解である。たとえ慎重策を選ぶつもりだったとしてもだ。


 政元の考えが全く読めないが、ここは不問に付すことにした。


「相分かった。支度が終わり次第、須知城を攻めるぞ」


「御意にございます」


 ともあれ、これで須知城への攻撃が決まったのであった。




 評定が終わってから四日経った。未だに須知城攻めは始まっていない。細川政元から攻城兵器製作の進捗状況が一切届いていないのだ。


 さすがにボクもしびれを切らして、逗留中の寺に政元を呼びつけた。


 奉公衆たちから不満の声が上がっている。エサをお預け状態のままずっと放置された犬みたいなものだ。いや、室町人は犬よりも凶暴な性格かもしれないから、この例えは微妙かも。


「いやはや、雨天続きで番匠たちが手間取っているようでして。あと、大きな石を運ぶのにも遅れが出ておりまする」


 政元は全く悪びれる様子がない。


「もたもたしていると、味方の士気が落ちるぞ」


「今日中には支度が整いそうとのこと。奉公衆にもお伝え下さいませ」


「やっとか。それでは明朝に攻めるぞ」


「いえ、攻め始めるのは明後日にしたいと存じます」


「――は?」


 思わず間の抜けた声が出てしまった。


「これ以上まだ遅らせると申すか?」


卜筮ぼくぜいによると、明後日が吉日だそうです。公方様はあまり占いの類いを信じておられぬようですが、信じている者どもの気持ちを汲んで頂けると幸いに存じます」


「ならば仕方ないか……」


 ボクは苦々しく思いながらも了承した。


 こんなことが起こるのなら、普段から「好機あらば、占いの吉凶を気にせずに攻めかかるべし」みたいなことを触れ回っておけば良かった。今後の課題にしておこう。

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