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第26話 足利将軍西へ

 延徳三年(一四九一年)五月二日。一条御所からボクは丹波に向けて出陣をした。


 一条御所とは細川材春きはるくんの屋敷である。ボクが移り住んだので御所と呼ばれるようになったのだ。


 材春くんというのは、元細川之勝くんのことだ。ボクが『材』の文字を与えることで改名をした。


 『義』の字は与えなかったものの、世間には相当なインパクトを与えたようだ。口が悪い京雀が「将軍は細川京兆家よりも細川讃州家を重んじている」とか言い触らしているくらいに。結局は悪い噂が流れてしまったのだ。


 ただし、京兆家は今回の出陣に際して一千貫文(およそ一億円)もの大金を将軍家に提供している。とんでもなく破格の金額だ。京雀の噂話を蹴散らすくらいのインパクトがある。おかげで京兆家と将軍の仲は良好だと世間にアピールできた。


 ……正直な話、細川政元がここまで資金を提供してくるとは思わなかった。何か裏があるのではないかとボクとしては勘ぐってしまう。惚れた女性を疑いたくないんだけど、未来知識が警鐘を鳴らしてくる。


 政元の思惑はさておき、この一千貫は非常に有り難い。おかげで将軍やその周りの者の武具を新調することができた。


 将軍自らの出陣ということで、都の通りには大勢の群衆が見物に来てくれている。そんな中をみすぼらしい集団が進んでいくという失態を晒さずに済んだ。ボク自身もこの前の強訴鎮圧の時よりきらびやかな姿で馬上にまたがっている。


 ボクが率いているのは奉公衆だけではない。現地で政務を行う必要もあるので奉行衆も一緒に丹波へ向かう。政所執事の伊勢貞陸くんや、側近の葉室光忠も一緒だ。普段からボクの側で働いてくれている人間は丹波までお付き合いして頂く。


 細川京兆家の軍勢は分家筋も従えていて、将軍家を上回る陣容である。京の都から出陣する兵数だけで一万人に近い。他にも分国からさらなる軍勢を丹波国に送り込む手筈だそうだ。二千人程度の奉公衆を率いる将軍とは動員力も経済力も桁が違う。


 ちなみに昨年行われた丹波国人一揆鎮圧の話だが、細川京兆家は二万を超える兵を送り込んだのに敵の拠点を全て陥落させることができず、結局一揆勢が身を隠すという形で終結した。山がちである丹波国では、大軍を展開するのに不向きなのだろう。


 隠れていた一揆勢が今回再蜂起したわけだが、連中は地の利を生かした戦い方を心得ているはずだ。大軍を率いている細川家が有利な戦いとは言い切れない。


 さて、国人衆が蜂起した理由だが、ボクの耳に入ってきた情報によると、細川政元の人事に問題があるようだ。


 丹波の国人に上原兼家うえはらかねいえ元秀もとひでという親子がいる。それほど権威がある家柄ではないのだが、政元はこの親子を抜擢して守護代に任じたのであった。


 急に成り上がった上原氏と、その下に甘んじることになった旧来の国人層。よくある対立構図だが、今回の国人一揆もこういう状況のようである。


 上原元秀とはボクも対面したことがあるわけだが、相当に優秀な人物である。つまり、政元の人事は的確なのだ。


 ただ、大抜擢の裏で悔しがっている人々へのケアを、政元が実施しているかどうかは怪しい。彼女は自分がやりたいことを勝手気ままにやって、それに伴う他人の気持ちとかそんなに気にかけない性格みたいだし。あの珍奇な衣装とかね。


 実際に丹波国で何が起こっているのかは、この目で確かめたい。密使が持ってきた情報と、現地で見聞きする情報は違っているはずだ。その場に行かなければ分からないことがきっとある。

 近いうちに真相が見えてくるだろう。

細川之勝は、史実では義春と名乗りますが、この小説ではこれ以降材春と呼びます。

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