第19話 進軍先候補
かなり強引ではあるが金策の目処が立ったので、どこに外征するのかを決めることにした。
というわけで、側近の葉室光忠から意見をもらう。今まで彼には親父様のご機嫌伺いを主に任せていたが、これからは側近の筆頭としてボクの無茶振りにお付き合いする役になってもらう。またもやストレスが多い役目であるが、優秀な人材である証だということで。
「考えられる出陣地は三つあります。まずは河内国です」
「河内か……」
実は昨年末、河内に実質独立国を築き上げていた畠山義就さんが病没したのだ。卓越した軍事センスで勝利を収め続けてきた彼だったが、さすがに寿命には抗えなかった。
義就さんの跡は嫡男の基家くんが継いだ。
ライバルである畠山政長さんとしては千載一遇のチャンスが来たということで、ボクに親征の要請をしているのである。
義就さんは長らく幕府に反抗を続けてたので、将軍が出陣する大義名分はある。
しかし、河内出陣はちょっと手を出しにくい。
史実ではボクが河内に出陣した時に明応の政変が発生しているのだ。まだ元号が「延徳」であり、「明応」になっていないから大丈夫な気もするが、果たしてどうなのだろうか。
首謀者である細川政元への対策を全く打てていないということで、時期を前倒しで出陣してもやっぱり政変が起こる気がする。
あと、基家くんとボクは顔見知りなんだよなあ。応仁の乱の頃、西軍の陣中で遊んだ幼なじみ同士なのだ。攻め滅ぼすのは少々心苦しい。
うん、やっぱり河内は後回しにしておこう。政長さんには当面の間、基家くんの家臣団の切り崩しを頑張って頂く。基家くんを追い詰めて、自発的に降伏してくれるようになったらベストの形である。
「次の案は越前国への出陣にございます」
光忠が次の出兵先を提案してくる。
越前は、元々は三管領家の斯波氏の分国だった。しかし、応仁の乱を経て、家臣である朝倉氏に奪われてしまったのだ。
そんな経緯があるわけだが、斯波家は越前をまだ諦めてはおらず旧領奪還のためにロビー活動を頑張っている。
足利家に次ぐ家格の斯波家が復活してくれれば幕府としても有り難い話ではあるのだが、幕府軍が朝倉に攻め込んで勝てるかどうかは少々怪しい。
越前って米の収穫量が多いし、水運業で繁栄しているしで、兵を多数揃えられる土地だ。半端な覚悟で侵攻したら返り討ちに遭いかねない。
あと、朝倉家って代々有能だったと記憶している。織田信長に敗れたあの人は別として。
その当主たちを支える名将朝倉宗滴もそろそろ登場するはずだ。
威信が低下しまくっている将軍家としては、うっかり敗北してこれ以上威信を落とすわけにはいかないのだ。絶対に負けられない戦いがそこにはある!
てか、朝倉家を討伐するのに大義がない。朝倉が越前を奪ったのも、義政伯父さん公認だったわけだし。斯波さんの私怨だけじゃ、幕府軍を動かせないよ。
はい、次の進軍先。光忠くんどうぞ。
「近江です」
先代義煕くんが攻め込んだ近江か……。
将軍親征を受けて甲賀郡(滋賀県南部)の山奥に逃げ込んでいた近江国守護六角行高が、幕府軍撤退以降に再び勢力を取り戻しているのだ。行高は義政伯父さんに赦免されているので、それは問題ない。
しかし、その時に約束した「横領した土地を返還すること」を反古にしているのは頂けない。もう一回幕府軍に攻撃されても文句は言えないだろう。そもそも、義煕くんが近江に攻め込んだ理由は、行高による土地の横領だったし。
将軍親征を行う大義は充分にある。
問題は勝てるかどうかだ。幕府の威信にかけて、必勝態勢で臨まないと。
後の太閤検地で七十七万石と算出されるくらいに、近江は米の収穫量が多い土地である。また、琵琶湖水運も発達しているし、畿内に隣接している技術先進地域だ。これだけを見れば強大な敵である。
しかし、六角家は近江の全てを掌握しているわけではない。守護使不入の荘園が数多く点在しているし、六角家の同族である京極家が近江北部に広大な領土を持っている。これらを踏まえると、六角は兵数をそれほど揃えられないと思われる。
義煕くんの親征を受けたダメージもまだ残っているだろう。今ならば弱っているところを叩けるかもしれない。
近江出征の方向で検討してみようかな。




