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第17話 医者と薬を求めて

 延徳二年(一四九〇年)十月。親父様が体調を崩してしまった。


 最初は単なる風邪だろうと思っていたが、なかなか快方に向かわないので医者に診せてみたら、腫れ物ができていてかなりの重症とのことだ。今まで何事もなく元気そのものだったから、ボクも含めて家中全員が仰天してしまった。


 半月ほど経っても親父様の病が一向に治らないないので、他の医者に診てもらおうと考えた。セカンドオピニオンって奴だ。ボクが未来の医学知識を持っていれば良かったのだが、無い物ねだりをしても仕方ない。


 というわけで、色々な方面に人脈を持っていそうな日野富子伯母さんに相談をしてみる。


「腕の良い医者でしたら心当たりがあるので、紹介しましょう」


 案の定、名医を知っているようだ。


「ありがとうございます。父は度々伯母上を煩わせていたというのに、お心遣い痛み入ります」


「気になさらずに。親孝行する者の手伝いなら、喜んで致しますとも」


 富子伯母さんが優しい瞳でボクのことを見る。


 伯母さんの息子の義煕くんは両親に反抗しまくって、親孝行とは真逆の生き方をしていたらしいからなあ。最終的には両親より先に他界するという最大の親不孝までやらかしてしまったし。


 ……ボクも前世は親よりも早く死んでしまったわけだから、あまり人のことは言えないけどね。今世でも、近頃は親父様を怒らせてばかりだった。本気で反省する。



 富子伯母さんに名医を紹介してもらったわけだが、残念ながらその医者も親父様を治すことはできなかった。


 こうなると、どれだけ医者を変えても効果は薄いだろう。親父様自身の生命力に任せるしかない。


 一応寺院で祈祷を行わせているが、こちらも無意味だ。――そう言ってしまったら、失礼か。妹の聖寿が毎日朝から晩まで親父様の快癒を祈願しているように、この時代では皆が本気で神仏の力を信じているのだから。ボクだって前世の知識がなかったら、祈祷にすがりついていただろう。


 そうだ。宗教と言えば、頼りになりそうな人がいるじゃないか。協力してくれるかどうか怪しいが、やれることは全てやっておかないと、絶対に悔いが残る。


 ボクは細川政元の屋敷に出向いた。


「山伏は薬に通じていると聞いている。右京大夫(細川政元)は何か腫れ物に効く薬を知らないだろうか?」


「まず思いつくのは之布岐しぶき(ドクダミの茎葉を乾燥させたもの)ですが、これは既に医者から渡されておりますよね?」


「すまぬ。薬の名は聞いていない」


「腫れ物に塗る薬にございます」


「おお、何か塗っておったな。あれが之布岐かもしれぬ」


「ならば、腫れ物に効く飲み薬をお譲り致します。少々お待ち下さいませ」


 そう言って、政元は席を立った。


 ボクが思っていた以上に、彼女は薬に詳しいようだ。山伏は野山を駆けまわって修行しているから、薬草知識を持っていないといざという時に困る。そう話に聞いてはいたが、まるで医者のようにスラスラと話せるレベルとは予想していなかった。


 ボクが驚いていると、すぐに政元が部屋に戻って来た。


「こちらが忍冬にんどう(スイカズラの茎葉を乾燥させたもの)になります。煎じてから下御所様(足利義視)に差し上げて下さい。念のため、医者に確かめてからお使い下さいませ。既に同じ薬を飲んでいるかもしれませんので」


「相分かった。必ずや医師に話してから使用する」


「あと、こちらもお渡し致します。忍冬を飲むと胃や腸を痛めてしまうので、それを和らげる陀羅尼助だらにすけにございます」


「だらにすけ?」


「役行者が作り出したと言われている薬です」


 ものすごく修験道っぽい薬も出てきた。


「ここまでしてもらい、感謝の念に耐えない。礼は後から持ってくる」


「困った時はお互い様にございます。どうかお気になさらずに」


 そう言う政元は、屈託ない笑顔だった。作り笑いではなく、心からの笑い顔。ボクの前では初めて見せる表情だ。


 親父様が復帰できなければ、ボクは政治的に大きな打撃を受ける。政敵である政元が協力する理由は全くない。


 それなのに、真面目に薬を選んでくれたのは彼女の善意に他ならない。


 案外、根は良い奴なのかもな。


 政元の顔を見ながら、ボクはそう感じた。

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