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第15話 紛争解決を目指して

 天下万民が安心して暮らせる世の中を創造するのが為政者の務めです。


 で、現状は全国至る所で戦いが発生しています。つまり、為政者である征夷大将軍は民の期待に応えられていないのです。


 うん、戦乱なき世の中にするなんて普通に無理です。根本的に、この時代の日本人は二十一世紀の日本人と違って暴力的です。悪口を言われたり笑われたりしたら容赦なく相手を殺すし、家督が欲しくなったら親子同士だろうが兄弟同士だろうが構わずに殺し合うし、食べ物がなくなったら集団で隣の村の食糧を奪いに行くし、とにかく乱暴です。


 こんな日本人をまとめあげて、惣無事と喧嘩停止を実現させた豊臣秀吉って本当に天才だったんだなと思う次第です。


 秀吉には遠く及ばないけど、ボクも少しは努力したいと思います。


 山城の国一揆は伊勢貞陸くんにお任せするとして、加賀の一向一揆の対策を考えましょう。


 史実だと織田信長・上杉謙信の時代まで一揆は継続するのだが、ボクは立場上解決を目指さなくてはならない。


 一向宗門徒の恐ろしさは知っているので、正面から挑むなんてことは全力でお断りする。


 この件に関しては徳川家康のやり方が実に鮮やかだったので、是非とも真似をしたい。具体的には、一向宗の本寺である本願寺を二つに割って、勢力を大きく削ぐ。結局やることは敵の分断である。


 幸い、現時点の本願寺にも内紛の種が転がっている。


 現在の法主は実如じつにょだが、実父である蓮如れんにょが実質的に現在の教団を率いている。蓮如は信徒から絶大な支持を集めていて、彼がいる限り一向宗の切り崩しは難しい。


 しかし、蓮如は既に高齢だ。遷化した後に隙が生まれる。


 蓮如は男子十三人・女子十四人の計二十七人の子供をもうけている。何人存命なのかは分からないが、後継者候補がより取り見取りなのは変わりない。実如に対抗する後継者を擁立して分断を謀りたい。


 ただ、蓮如はもう暫く生き続けるはずだからまだ先の話だ。分断の下準備はじっくりと行おう。


 全国各地で紛争の火種は燻っているけど、幕府が任命した守護の権力を真っ向から否定するような不届き者は山城の国一揆と加賀の一向一揆くらいかな。


 お家騒動はそこの家で解決してくれ。室町幕府が秀吉くらいに強大な力を持ったらお家騒動禁止にするから、その時まで待っていてね。ボクの代では無理だと思うけど。


 あ、幕府権力を否定している人がもう一人近所にいるな。河内の畠山義就さん。ここも一応お家騒動だし、畠山家のことは畠山家でよろしくお願いしたい。頑張って従兄弟に勝ってね、政長さん。


「公方様、よろしいでしょうか?」


 側近の葉室光忠がボクの部屋にやって来た。


「東国の件なのですが――」


「あー、あー、聞こえない」


 関東にだけは関わりたくないんだよ。あそこの連中、バーサーカーなんだから話がまともに通じないんだってば。


 戦をやめたら死んでしまうマグロだろ、この時代の関東人。関東で二十八年間続いた戦争(享徳の乱)が終結したのが、今から八年前の一四八二年。それから五年後の一四八七年にまた新たな戦いが始まっている(長享の乱)。ボクの前世の記憶が確かなら、この戦いは二十年ほど続く。で、その後にまた関東は戦火に包まれる(永正の乱)。


 いくら戦国時代とはいえ、ここまで長々と戦争を続けるのは関東武士くらいだ。次点で畠山家のお二人が入るけど、板東武者連中よりは多少はマシかと。


 幕府が文句を言ったところで、関東の武士連中には馬の耳に念仏状態だ。後北条氏に骨抜きにされるまではあいつらに触らない方が賢明でしょ。


 そうそう、後北条氏といえば、北条早雲こと伊勢盛時さんが見つかりました。なんと駿河から京に戻って来ていました。てか、ボク直属の家臣になっています。


 駿河国の守護、今川家で起こったお家騒動を解決するために都から下向したのが、今から三年前の一四八七年。そこで大活躍をした盛時さんは、いつの間にか京へ戻っていて九代将軍義煕くんに仕えていたようだ。その後、将軍が代替わりしたわけだけど、そのままボクに仕えている。


 こんな幸運もあるんだね。もちろん盛時さんを優遇しますよ。申次衆をやっていたので、奉公衆に配置転換をした。彼には軍才を発揮して欲しいもんね。


 そう遠くない将来、盛時さんを東国へ送り出すことになるんだろうけど、正確な時は分からない。前世のボクの知識が曖昧だからだ。


 ただ、盛時さんを関東へ送り出すのは、ボクの親族が命を落とすのがきっかけなんだよね。その未来は回避したいという気持ちと、史実通りに盛時さんを関東で活躍させたいという気持ちでボクの心が揺れていたりする。


 関東の問題は当面保留するとして、今は目の前にある大問題のことを聞いておきたい。


 ボクは光忠に質問をした。


「父上の様子はどうだ?」


「ここ数日の間、機嫌がすこぶるよろしくなく……」


「――やはりか」


 うちの親父様の機嫌が悪い理由は、富子伯母さんが政治に口出しをしていて、ボクがそれを一切断らないからだ。


 この板挟みの状況が、とってもしんどいのです。親父様の知識と人脈なしでは政権運営ができないし、伯母さんの機嫌を損ねるわけにはいかないし。


 そんなわけで光忠に、親父様のご機嫌伺い役をお願いしているのだが、あまり上手く行っていないようだ。彼の顔を見るに、ストレス過多でやつれ気味である。


 だけど、昔なじみの君が適任なんだよ。出世させてあげるし、お金儲けもさせてあげるから頑張ってくれ。


 そうそう、富子伯母さんの政治介入なんだけど、「この人を出世させろ」だの「この裁判を早く実施しろ」だの些事が多い。もっと重要案件に口を出してくるかと思っていたから、少々拍子抜けだ。かつて、夫を差し置いて最前線で幕政を執った人とは思えない。


 ボクのことを信用しているのか、それとも政治の表舞台に出るのではなく裏で蓄財に励みたいのか。


 ……伯母さんは銭ゲバって噂があるから、後者かなあ。

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