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第12話 将軍宣下の儀式の準備

 長らく待たされたけど、ようやく将軍宣下の日取りが決まりました。七月五日だそうです。真夏ということで、汗をだらだら流しながらの将軍就任式になりそうです。


 儀式に向けての支度を本格的に始めようと思った矢先、伊勢貞宗さんが隠居して家督を貞陸くんに譲るという報せが入ってきた。


 ――悲しいなあ。ボクが将軍になるのが気に食わなかったんだろう。仕方がないから、今後は貞陸くんと連携していこう。息子さんの方は上の世代の確執をそんなに気にしていないみたいだし、上手く付き合えていけるはずだ。


 とにかく、頭を切り替えて式の準備を頑張ることにする。


「兄上、この寺では勅使を迎え入れるのに手狭なのでは?」


 聖寿がボクにそう言ってきた。


 確かに妹の言う通りである。将軍就任の儀式を行うとなると、通玄寺では難しそう。


 将軍の住処では、花の御所の二つ名を持つ室町第が後世でも有名だ。しかし、残念ながら室町第は応仁の乱の末期に焼け落ちてしまっている。


「どこか、良い場所を探さないといけないな……」


 室町第の再興? そんな資金はございません!


 あと、将軍宣下の儀式には管領が必要なので、この役職を務めてくれる者を探さなければならない。ここ数年ほど、幕府では管領不在の状況が続いているのだ。探すと言っても選択の余地はないのだが。


 管領を務めることができる家柄は、斯波・畠山・細川の三家のみ。そういう風に、義満ひいおじいちゃんが決めてしまった。


 斯波家は応仁の乱で勢力が大きく後退。当主が分国に下向してしまっている。


 畠山家は内訌の真っ最中。ボクの本音としては政長さんにお願いしたいのだが、彼は基本的に河内国に在陣している。


 ということで、京にいるのは細川だけなのだ。細川家の惣領は政元。気が進まないけど、あいつにお願いするしかない。


 あちらとしても政敵であるボクの儀式なんかやりたくないだろうから、交渉が難航しそうだなあ。


「謹んでお断り申し上げます」


 案の定、政元の奴は拒否しやがった。


 こちらとしては、ひたすら低姿勢でお願いを続ける。立場を利用した強権を発動するのは最終手段だ。


「そう仰せになられましても、管領になったら烏帽子を被る羽目になりますので……」


 管領就任が嫌な理由は烏帽子かよ!


 思わず怒鳴りそうになってしまった。どんだけ烏帽子を嫌っているんだか。


 落ち着け、ボク。怒ったら交渉は台無しになるぞ。前世の営業職ではもっと大変な交渉した経験があるんだし、この程度で感情的になるな。


 その後、なおも食い下がったボクに根負けしたのか、政元が折れてくれた。


「――致し方ありませぬ。当日のみ管領を務めまする」


「束帯姿なのだから、必ず冠を被るのだぞ」


「それは覚悟の上にございます」


「覚悟するほどのことか? あと、念珠とか身に着けないように」


 どんな格好するのか分からないから、着衣に関しては念押しをしておかないと。朝廷からの使者がビックリして腰を抜かすことになりなねない。


「あ、そうだ。ついでと言っては何だが、宣下の儀は京兆家の屋敷で行わせて欲しい」


「……え?」


 ものすごく嫌な顔をしやがったな。


 ボクが将軍になったら、斯波と畠山の地位を引き上げて、細川を相対的に下げてやるから覚悟しておけよ。

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