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第1話 転生

 急に前世の記憶が戻って来た。


 非常識極まりない話だが、実際にボクの身に起こったのだから仕方がない。


 前世のボクは二十一世紀の日本人男性で、平々凡々と暮らしていた。満年齢二十五歳の時に高速道路で事故に遭ったことが、令和時代での最後の記憶だ。


 その後、ボクの魂は時を遡って転生していたようである。


 突然のことで頭の中が大混乱状態だったが、半日ほどゆっくり休んで現状を把握しているうちに落ち着いてきた。何やら思考が前世の記憶に引っ張られているけどね。例えば一人称とか。


 ボクの名前は足利義材(よしき)。室町幕府九代将軍義煕よしひろの従兄弟で、未来知識によると近々十代将軍になる予定の男だ。


挿絵(By みてみん)


 年齢は数えで二十四歳。つい半日ほど前まで足利義材として普通に暮らしていたわけだけど、ここで急に前世の記憶がよみがえってきた。


 ……ボクって未来でマイナーな人物扱いらしい。高校の日本史の教科書でも取り扱ってくれないなんてショックである。たまたま前世のボクは歴史好きだったので、多少の知識を持っているのが救いだ。ありがたいことに、知識・経験は前世と今世の両方が頭に入っている。


 前世の記憶が戻った今現在は長享ちょうきょう三年二月末。西暦に直すと一四八九年。応仁の乱が終結した一四七七年から計算した。


 現在のボクの所在地は美濃国(岐阜県南部)。元々は京生まれの京育ちだったのだが、ボクの父親が応仁の乱で敗軍の将になってしまい、一緒に都落ちをする羽目になったのだ。以来、ずっとここで暮らしている。


挿絵(By みてみん)


 そんなボクが次の将軍になるというのだから、世の中は分からないものだ。現将軍の義煕くんが男子に恵まれなかったので、従兄弟のボクにお鉢が回ってきたのである。


 前世の知識によると、ボクは将軍就任後も実に波瀾万丈な生涯を送ることになるようだ。


 将軍になってから数年で臣下にクーデターを起こされて、その地位から転げ落ちてしまう。この事件は「明応の政変」と後の世で呼ばれている。


 政変後、囚われの身になり、そこで毒殺されかかる。


 何とか一命を取り留めた後、嵐が吹き荒れる夜に幽閉先から脱走。京の都から離れる。


 その後、越中国(富山県)・越前国(福井県北部)・周防国(山口県東南部)と各地を転々とする。この様子から「流れ公方」というあだ名が付く。


 都落ちしてから十数年後、まさかまさかの上洛に成功。将軍に返り咲くことになる。


 将軍に復職できたのだが、それからしばらく後にまたもや京から退くことになってしまう。原因は支えてくれていた家臣との不和。


 京から出奔した後、堺(大阪府堺市)・淡路国(兵庫県淡路島)・阿波国(徳島県)と流れていく。この時に付いたあだ名が「島公方」とか「阿波公方」とか。


 最終的に阿波国で病没するのだが、その死は各地の大名たちに気付いてもらえないくらいに寂しいものだったようだ。要は政治的影響力を失っていたのだろう。


 ……嫌な人生だ。天寿を全うすることができそうなのは幸いだけど、こんなの苦労しまくるに決まっているじゃないか。都落ちした場合、将軍家の人間ですら落ち武者狩りのターゲットにされてしまうのが室町時代である。襲撃に怯える日々を送るだろうから、ストレスで胃に穴が空いてしまいそうだ。


 将軍にならずにこのまま平穏に美濃で暮らすという選択肢も思いついたのだが、ボクの代わりの新将軍さんから討伐軍が派遣される恐れがある。将軍家の血筋ってだけで危険視される世の中だし。


 ならば、せっかく未来知識を得たのだから、これを駆使して将軍の座に長く居座ってやろう! これがボクにとって一番幸せな人生のはずだ!


 と意気込んではみたものの、前世の知識を生かして何かを発明するとかは無理だ。高校時代の成績は歴史が多少得意だったくらいで他の教科は微妙だったし、卒業後に就いた仕事は営業職だった。専門知識なんてものは全く持ち合わせていない。


 頼りとなる歴史知識も部分部分を知っているだけで、細かい点は曖昧模糊あいまいもこだ。正確な年号すら頭に入っていない。


 ともあれ、ボクが目指すのは明応の政変の阻止である。そうすれば、ボクは「流れ公方」とならずに、ずっと将軍として君臨できるはずだ。


 ついでに、足利将軍家を長続きさせたいという願望もある。明応の政変がきっかけで将軍家は真っ二つに割れてしまい、争い続けることになる。戦国時代の開始は応仁の乱からではなく、明応の変で室町幕府の権威が大きく失墜してからだという学説もあるくらいだ。ボクの頑張り次第で将軍家が実際の歴史よりも延命できるかもしれない。


「……で、何をすれば良いんだ?」


 全く思い浮かばない。薄っぺらい歴史知識だけで本当にやっていけるのだろうか。下手したら、史実よりも不幸な結末になってしまうかもしれない。


 嫌な考えがもたげてきたが、ボクは頭を振ってその思考を消し去った。


「とにもかくにも頑張ろう!」


 こうして、ボクの人生改竄が始まったのであった。

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