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テレフォンライン  作者: 新庄知慧
99/116

99 巨人が遊ぶ積み木

「ああ。思い出した・・・ひょっとして、探偵の方ね。そうか。あなたのこと、演出から聞いてますよ。ああそうか。ごめんなさいね。




宮本が来たらすぐに連絡するはずだったのにね。公演が無事終わってから連絡しようと思ってたんですよ。




でも、いいです、おしえましょう。宮本があの調子じゃ、どのみち駄目かもしれないし。




いっそどこかへ宮本を連れてってもらった方がいいな。その方が公演は安泰かもね」




「・・・で、どこなんです」




私はドアの方を指さしながら、小声でいった。彼女はドアを振り向きかけたが、事情を察してうなずき、肩をすくめて悪戯っぽく笑った。




私はメモ帳をポケットから出して彼女にペンとともに渡した。彼女はメモに書いた。




それを見て、私は頭を下げた。そして彼女に、ベンチの陰に隠れて伏せるように手で指示した。




彼女は面白そうな顔をして、ベンチの陰に隠れた。




私は足音を忍ばせ、素早くドアの横に走りよった。そして思い切って声を出した。




「ここは僕の事務所じゃないんだ。おとなしくしてくれよな」




ドアの向こうで、重たそうなものが動く音がした。




続いて走り去る靴音がした。




私はドアを開けようとしたがだめだった。廊下にあった重たいダンボール箱でドアが押さえつけられているようだった。




力まかせにドアに体をぶつけると、意外にすんなりと開いた。




私は廊下を走り、地上へ出たが、すでに誰もいなかった。




・・・・・・・・




夜になった。




私の車は、本牧埠頭に近い運河沿いの道を走っていた。




私の車のはるか後方には、またあの白いニッサンが走っていた。私はかまわずに車を走らせた。




再開発地区の高層ビルのネオンが、遠く、運河の黒い水の向こうに見えた。




水の上には、ダルマ船と呼ばれる木造の運搬船がいくつもひっそりと浮かんでいた。




やがて埋め立て地の広い道路に出た。道沿いに巨大な倉庫が、巨人の遊ぶ積み木のようにして立ち並んでいるのが見えた。




それが途切れたあたりに、でたらめな形に折れ曲がった赤色や緑色の蛍光灯の光に照らされた、ざらざらしたコンクリート作りの四角い建物がぽつんと立っていた。




その近くで、私は車を停めた。白いサニーは、また私の車の前を走りすぎていった。私は呆れた。




四角い建物は、かつて米国兵相手のパブだった。




ベトナム戦争の頃には、米国の接収地に住むGIたちがよく利用して繁盛していたが、今は接収地も日本に返還されて客も減り、かなり寂れていた。




オーナーはアメリカ人だが、日々の営業は雇われた日本人にまかされていた。




昼間、劇団の女性から得た情報によれば、その日本人はあの劇団の後援者の一人で、宮本はここに転がり込んで、店を手伝いながら寝泊まりしているはずだった。




私は、少なくとも4回はペンキを塗り直したと考えられる、古ぼけた白い木製の扉を押した。




店の中は静まりかえっていた。




・・・・・つづく





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