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テレフォンライン  作者: 新庄知慧
98/116

98 彼はもうだめだ

「いえ、まだ」




「そうなの」女性は寝不足のような顔をしていて、両目の下に紫の隈ができていた。のろのろと立ち上がり、壁際のデスクへと向かった。引き出しから青い色の紙束を取り出した。




「一応、来週からですけどね。買います?」




「ええ」




「予定通りやると思うけど。でももし、だめだったら、ごめんなさいね」




「どういうことですか」




「ひょっとすると、延びるかもしれないんです、この公演。まだ、出来上がってなくて。実は、本が変わるかもしれないんですね」




「脚本が?本は、宮本さんですよね、これ」




「あら、よくご存じね。表向きは演出が本も書いたってことになってるんだけど。そうです、本当は、宮本。そうなんです」




「実は私、宮本さんの知り合いでして」私はいった。「入院したでしょ、彼」




女性は少し顔色を変えた。そして、いった。




「宮本さんの?そう?どういう知り合いなの?大変だったんですよ、ここへ来て暴れちゃってさ。とっくの昔に退団した人なんですよ、でも、今回、本を書くことになってね」




「それで、宮本さんの名前がクレジットされなかったのに怒ったんでしょうかね」




「それもあったけど、やっぱり、気にくわなかったみたいね。直しがはいったんですよ、本に。それに、芝居の稽古を見た感じでは、宮本さんのイメージに、全然、あわなかったみたいで」




「そうですか」




「お友達のあなたには悪いけど、彼、やっぱりもうだめなんじゃないかな。体もボロボロだし、みんなで病院にかつぎこんじゃったんですね」




「ええ、知ってます。それで、今日、見舞いにいったんですが、病院を抜け出してしまってた」




「え?何ですって。もう退院したときいてたのに」




「最近、宮本さんに会いましたか?」




「ええ。昨日、ここに来たんですよ、彼。本の内容を変えたいって言い出したんです。




ほら、いじめの殺人事件があったでしょ、女の子とその義理の兄さんが殺されたっていう、あれ。あれに触発されたみたいなんだけど。




恐ろしい形相で、本を変えるっていいに来たんですよ。それで演出やみんなと、また大喧嘩」




「今どこにいるかわかりませんか」




「わかりますよ。あなた、どういうお知り合いなんです」




それに答えようとした私は、稽古場の入口のドアの向こうに人の気配を感じ、口を止めた。




女性は首を傾げて私の顔を見た。そして、いった。




・・・・・つづく



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