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テレフォンライン  作者: 新庄知慧
97/116

97 ガウディのパーキング・タワー

病院を出て、私は黄金町を当てもなく歩いた。




ひょっとしたら、この辺の木賃宿を泊まり歩いているのかも知れない。その辺の一杯飲み屋で、ひっくり返っているのかも知れない。




町には、昼間だというのに、赤ら顔をして、よたよた歩いている中年の男性が何人もいて、尻ポケットには一様に競馬新聞をねじりこんでいた。




裏路地には、一目でホームレスと分かる風体の老人が、しゃがんで日本酒を飲んでいた。




ただの酒屋を改造したスタンドバーには、カンカン帽をかぶり、黒いサングラスをして赤い背広を着た男が、ウイスキーグラスを片手に、首を振りながら訳の分からないジャズのようなものを歌っていた。




私は宮本が好きそうだと勝手に目星をつけたホテルやスタンドバーに何気なく入っては、宮本のことを尋ねた。




しかし、そんな行き当たりばったりの聞き込みで、成果が得られるはずはなかった。それでも動き回らずにはいられない気持ちだった。




こんどは宮本が危ない、という予感が私にはあった。




町を歩きながら、私はふと誰かが自分を見ているような気がした。




振り返り、あたりを見回した。




その気になって見れば、この町の往来にたたずむ住人は、皆、私を監視しているように思われた。私はここでは異邦人なのだった。




私は車を駐車したパーキング・タワーへと向かった。




それは時代もののパーキング・タワーで、日本最古のものではないかと思えるような、煤けた茶色の歪んだ建物だった。




ピサの斜塔ほどではないが建物は傾いており、改修に改修を重ねた床や壁は奇妙に膨らんだり凹んだりしていて、アントニオ・ガウディの建築物を思い出させた。




私は4階のパーキングエリアにある自分の車に乗りこみ、キーを回した。




迷路のような駐車場をゆっくりと走り出した。パーキング・タワーから滑り出て、国道に乗った。




白い色をした中古のニッサンが、私の後に続いて国道に乗った。




そのフロントグラスは、ギャングが乗る車のような反射ガラスだった。何者が乗っているか分からない。




私はそれを見て苦笑した。あまり上手な尾行とはいえない。




・・・・・




私は宮本が属していた劇団の稽古場のあるビルの前で停車した。




私を尾行していた白いニッサンは、止まらずにそのまま走り去った。




私はニッサンが遠く走り去るのを見送ってから車を降り、ビルの地階へと歩いて降りていった。




稽古場のドアを押してみると鍵はかかっていなかった。




がらんとした空間には、ベンチが3つ置かれてあり、その一つに、長い髪をブラウンに染めた女性がひとり座って、タバコをすっていた。




手にした芝居の台本らしきものに、目を落としていた。




彼女は緩慢なしぐさで、ドアを開けた私のほうを見た。




「どなた?」女性はいった。




「こちらの劇団のファンです。次の公演のことをうかがおうと思って、来ました」




「来週からですけど。チケット持ってますか」




そういって、上目づかいに私を見た。




・・・・・つづく



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