90 私が殺される
「私はすべてを断罪する。マユミは私が殺した。先に電話で述べた通りだ。私は世界のすべてから迫害された。
私の正義は世界によって汚辱されたのだ。私は復讐する。君には私の殺人の動機は理解できないだろう。
しかし私が何者か、どんな思想の人間か、君にはおぼろげにせよ見えていると期待している。つまり、私は自分の過ちを清算する。
マユミは、私が愚かな思想に染めてしまった、この世から消去しなければならない第一の生き物だった。
私の愚かな思想で染められた彼女は、この世に、同じ愚かな考えを撒き散らす。消さなければならなかった。
そして、いま一人、私が消さなければならない人間がいる。それは、君の良く知っている男だ。私の信望者だ。
君がどこまで私のしたことを理解しているか心もとない。
しかし私を恩人であるかのごとく考えている彼等は、私が断罪しなければならない世界の象徴だ。
彼等を消すことによって、私は私の断罪を成し遂げうるのだ」
私は読み返して、首をふって、舌を鳴らした。
何をいっているのか、さっぱり分からないが、「永野」がマユミを殺し、内田を殺害しようとしているのだといっていることは分かった。
しかし、このワープロの手紙の差出人、「永野」が何者かは不明である。まさか死人が生きかえったのか?本当は生きていたのか?あるいは生前の永野の意志を継ぐ者か?生前に永野が書いたものか?
そして、なぜこんな手紙を出すのかも、もちろん不明だ。
そして、結局、内田は殺害されていない。河合が殺された。「永野」は、内田を殺そうとして、それより先に河合を殺害したのだろうか。
河合が、「永野」を「迫害」した人間の代表であるらしいことはわかっている。「永野」の殺人リストには、河合の名も載っていたのだろうか。
次に、「永野」ではないと仮定すると、どうか。「永野」を犯人に偽装することで、得するのは誰か。マユミや河合を殺害した人物と考えるのは妥当な線だ。それは一体、誰か。
私は考えながら、歩き、ふと、ある考えに行き当たった。指を鳴らし、手紙をポケットにしまうと、きびすを返して駐車場に向った。
そのとき、私の背後の倉庫の影から、1台の車が現われた。
急速にスピードを上げて、私に迫ってきた。私が車の気配に振り返ったのと同時に、車はライトをつけて私の姿を夕闇の中に照らし出した。
ギラリと光ったライトを、まともに見たため、目がつぶれたかと思った。
車は、明らかに私をひき殺そうとしていた。私は咄嗟に路肩に跳び、間一髪のところで車との衝突を逃れた。
車とすれ違いざまに、つぶれかかった目で、運転席の人物をとらえた。
あのキラーだった。
私の方を見て、うすら笑いを浮かべていたのが、私の目の網膜に写真のように焼きつけられた。
道路上に転がった私は、両手をついて素早く立ち上がり、次の攻撃に備えた。
しかし、私を襲った車は、そのまま猛スピードで走り去った。一応、車のナンバーは記憶したが、恐らく盗難車に違いないだろう。
私を殺そうと、随分早く手をうったものだ。
私は感心し、同時に篠原を甘く見た自分を反省した。
・・・・つづく