9 魅惑の青年
「はじめまして。玖村と申します」
私は名刺を差し出し、お辞儀した。
「探偵?」
名刺の肩書きを見て、相手の男は声をあげた。
男、というよりも少年と言った方がいい、幼い顔つき。美少年だった。
ここは横浜理科大学のキャンパスのすぐ近くの喫茶店。窓からは大学の正門へと続く並木道が見える。
それを背景にして、彼の差し出した名刺に見入るその少年がいる。
私と向かい合って、喫茶店のテーブルに腰掛けたその美少年は、名前を内田久といった。
「実は、影山マユミさんが行方不明で、その調査をしているんです」
「マユミ。マリンクラブの」
「ええ。1か月ほど前からです」
「そうですね。ふっとやめてしまったんですよね、お店」
「お店には、よくいらっしゃってたときいてまして、何かご存じじゃないかと思って」
「いやあ、それは、こっちが聞きたいです。どうしてやめてしまったのか」
「何か深刻に悩んでいたとか」
「ええ」
内田は黙って窓の外を見た。
「内田さん、学生さんですよね、大学院の」
「そうです。へえ、さすがは探偵さんだ、調べはついてるんだ」
「海洋生物がご専攻ですね」
「ええ」内田は少しいやそうな顔をした。
いやそうな顔をしても、また別の魅力を感じさせる美しい顔だった。女性なら、こんな男にはきっと一目惚れしてしまうだろう。
体つきはどちらかというと、痩せ型だが、テニスやボクシングといった瞬発力を要求されるスポーツにはうってつけな感じの体格だった。
大学院生というだけあって、表情には利発さが感じられる。馬鹿な二枚目というのとは違う。
「マユミさんのことは、僕も心配してたんです」
「と言いますと?」
「店には何度か行ったんですよ、復帰してないかと思って」
「いつも指名されてたそうですね」
「ええ。趣味が合ったんで」
「海の関係」
「まあ」
「海の詩とか」
「海のイメージの店でしたからね。最初は社会人の友達といっしょに、シャレで行ったんですが、あのマユミに会ってからは、一人で通っちゃった」
・・・・・つづく