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テレフォンライン  作者: 新庄知慧
89/116

89 この街の潮風

「・・・彼は、趣味がこうじて殺し屋になったようです。




私は彼に襲われ、殺されかかったわけですが、彼が私を襲ったときは、残念ながら、殺人をするには彼の趣味に合わない状況だったようです。




で結局、私、こうして生きているんです。ああいう、職業が趣味と一致している人に仕事を依頼するのは、いいようで悪いですよ。」




私はとうとうとしゃべった。




「それで、これは私、本当にびっくりしたんですが、ついさっき、その殺し屋にそっくりの人を、ここの1階でお見かけしました」




篠原は少しの間だまっていたが、やがて重々しく口を開いた。




「おい、君は何か、その殺し屋を私が雇って、君を殺そうとしたというのかね」




「決してそんなことはいってません。あの殺し屋はマユミさんの母親のからみで僕のところへ来たといってました。




しかし、それを無理矢理あなたにこじつけて中傷の材料にする奴が出ないとも限りません。」




「どこにそんな奴がいるんだ。君か。君はつまり私を恐喝にきたのか。呆れ果てて、口もきけないとは、まさにこのことだ」




「すみません。どうも私は、口がへたで。決してそういうつもりではないんです。今日は日が悪いようですね。




今日は、おっしゃる通り、帰ります。しかし、どうか、私のいったことを良くお考えになって、気が変わったら、どうか、お声をかけて下さい」




篠原は返事しなかった。私は深々と頭を下げて、部屋からゆっくりと退去した。






私の去る間際、篠原は険しい表情をして、じっと何か考え、両手の拳を固くにぎりしめ、怒りのためか、少し体が震えているように見えた。




それから、電話機に手を伸ばし、プッシュ・ボタンを激しく叩いて、誰かにコールした。






・・・・






私は病院を出て、駐車場を横切り、しばらく歩いた。




港の再開発地区の建物は、夕陽を浴びて蜜柑色に染められていた。まだ開発途中の、閑散とした地区で、見上げると夕焼け空がいやに大きなものに感じられる。風が穏やかに吹いていた。




排気ガスや廃液の匂いに程よく汚された、この街らしい香りのする潮風だった。




開発がこのまま進めば、この大きな空は切り刻まれ、この潮風も、乱気流のようなビル風にとって代わられるのだろう。




私はタバコをふかしながら、目の前に広がる風景を、心にスケッチするようにして眺めた。




私はゆっくりと歩きながら、ジャケットの内ポケットから一枚の紙を取り出し、読んだ。




それは「永野」からの手紙だった。




A4サイズの一枚に、ワープロで打たれた手紙だった。私のもとに、この手紙が届いたのは昨日のことだった。




封筒の宛名も差し出し人も、ワープロで打たれたシールだった。私は手紙を読み返した。その手紙には、こんなことが書かれていた。






・・・・・つづく





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