85 幽霊か
「重要かどうかはわからない。かなり大切とは思うがね」と私は答えた。
藤山はまたうめいた。
「永野先生?そんな関係者がおったんですか。そして行方不明?ふうむ・・・」
また天を仰いでしまった。誰に聞くでも無く、いった。「その人もことも調べなあかん?」
私はいった。「いずれにせよ、警察の調べでも、内田が真犯人とはいえないわけですよね、マユミの件でも河合の件でも・・・」
「そうです」藤山が答えた。
私はきいた。「河合の親御さんとは、お話しされましたか」
「ああ」大田が答えた。
「河合の母親はもう2年前に亡くなっててね。離婚した父親に聞き込みにいったよ。医者だ。ここでも、おまえに先を超されてたなあ。
おまえのことも、いってたぞ。変な探偵が聞き込みに来たって、ひどく迷惑がっていた」
私はきいた。「素直に警察に会ったか?」
「素直かどうか知らないが、会ったよ」大田はいった。「だが殺された河合正利については、もう、あれは親子でも何でもないから、関係ない、と、こうだ。
にべもなかったぜ。河合は、中学生になった頃から、母子家庭だったわけだ。かなり寂しい思いをして育っている。
あの冷たい医者が父親だったんじゃ、性格は歪んでいるかもしれんな。おまえだからいうが、女性関係もだらしないな。
身辺の人間に聞き込みもしたんだが、マユミのほかにも、他の女に子供の1人や2人つくらせてるんじゃないか?」
「そうか」私はいった。「俺はあの医者は、ひどく気に入らん」
「あの医者も、おまえのことは、ひどく気にいらん、といってたよ。俺も、気に入られちゃいないだろうね」大田は笑って、いった。
「それで一体、どうなるんですかな、この事件は」藤山が口をはさんだ。「内田は全部自分が殺ったといってますが。それは、その、永野先生をかばってるんですかなあ。永野とやらいう人が犯人ですか」
私はいった。
「それは、どうだか。実は永野という人は、すでに亡くなっているという情報も得ているのですが」
藤山は、「なに?」という顔で目を丸くした。
大田が口を開けて何か抗議しようとした。
しかし私は、それらをさえぎるようにして、「しかしどこか身近なところに帰ってきているのかもしれない。実は、「永野」と名乗る男から、電話があったんです」
「ほんま?」
藤山がまた驚いていった。幽霊かよ、という顔をして大田が舌を鳴らした。
「ええ、たまたま僕が内田といっしょにいたところへの電話でした。もちろん私は、その永野という人の声は知らない。
しかし、そのとき、内田も電話にでた。内田は、その電話の声の主が、永野本人であると確認したようでした」
・・・・・・つづく
 




