84 新たな登場人物
「でもまあ、いい線いってるかもしれないじゃないか。こんなもんかも知れないぜ、この事件は。真相がどうでも、あの内田が何をやってもやらなくても、社会の大勢にゃあ、影響もないだろうし」
すると藤山が大田を見ていった。
「大田くん、そんないい方はないよ。あの青年を、そんな簡単にかたづけちゃあかんと僕は思う。内田くんは、前途ある青年だよ」
「あ、いや、すみません」大田は素直にあやまった。「疲れてたもんで。いや言い訳はだめですね。すみません」
藤山はそれには答えず、私のほうを見て、聞き取りを始めた。内田を発見した時のいきさつ、そのときの彼の様子、細大もらさず私にきいてきた。
それは要領を得ない聞き方で、話は、あっちへ行ったり、こっちへ行ったり、先へ飛んだり、後へ戻ったりした。しかし私は辛抱強く答え、話した。
私は、きのうの大田の現場検証の結果を聞くまで、内田が真犯人であると考えていたと話した。
「いやあ、そうですな。内田は真犯人に見えますわな。内田本人も、そう考えています。殺したのは自分やとね」と藤山はいい、関連する情報を私に話した。
頭が粉々に砕けて倒れていたという河合の状況は、まだ内田には話されていない。
内田によれば、自分が鉄パイプで河合の頭を殴り、河合は倒れた。死んだと確信して逃走した。鉄パイプはどこへやったか覚えていない。
それは殺人現場の近くの芝生に投げ出されたままだった。
「殺意はあったんやろうけど、とても計画的なものとは思えません」
藤山はいった。
「動機は、最初は、あんさんにいったようなこと・・・親友やったのに、裏切られて、といってましたが、いじめへの復讐だと、いい直しました。
それで、マユミのことも、あいつの妹だから、先に殺した、といいました」
「そうですか」
「難しい事件ですわ。わたしには、何がなにやら、さっぱりですわ」
藤山は、眉をよせ、口をへの字にして、天を仰いで、うめいた。それから顔を前にむけて、いった。
「でも、がんばりますわ」
私はいった。「私には、内田が、誰かの罪をかぶろうとしているように思えて仕方ないんです」
「と、いいますと?」藤山は興味を示した。
藤山にこたえ、私は、内田の恩師で、マユミの恩人でもある、永野のことをかいつまんで話した。
大田がそれを聞いて叫んだ。
「何?また新たな登場人物か。重要じゃないか、その先生は。そういうことは、もっと早く教えてくれよ」
・・・・つづく