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テレフォンライン  作者: 新庄知慧
81/116

81 もう廃人に近い

「劇団の方ですか」




「ちがいますけど」




「どうでもいいけど、親戚の方を連れてきてもらえませんか。親御さんは、もう、無くなったそうだし、奥さんとは離婚したっていうし。入院の手続きも、ろくすっぽやってないんで、困ってるんですよ」




「はあ。宮本は、どうしてここへ…」




「この人がいたっていう劇団の稽古場で酒に酔って大暴れして、発作が出て、かつぎこまれたんですよ、救急車で。




肝臓がひどくやられてるんです。アル中ですよ。手術が必要です。いま、薬で眠ってもらってますけど、目覚めたら、禁断症状が出ます。




大暴れします。そろそろ、手足を縛らないと」




「そんなにひどいんですか」




「そうです」




看護師はぷいと横を向き、隣のベッドに行った。体の水分がすべて無くなってしまったような80歳くらいの老人が、口と目を開けたままで横たわっていた。そこで看護婦は、点滴をする準備にとりかかった。




私は看護師にきいた。




「禁断症状が出るようになったのはいつからですか」




看護師は面倒くさそうにいった。「ここ1週間」




「それまでは平気だったんですか」




「ええ。隠れてウイスキーを飲んでたからね、この人」




私は宮本の顔を見た。もう廃人に近かった。




そこへ、中年男が現われた。山瀬だった。




「やあ、久しぶりですね」山瀬は私に挨拶した。そして宮本を見て、いった。




「うわ、ますますひどいな、こりゃ。もう駄目ですね、こいつ…」




私は山瀬の通報に礼をいった。山瀬は手を振り、いった。




「いや、もっと早く連絡すればよかったですね。つい何日か前までは、こんなじゃなかったんですよ、この宮本は。




こっちが追及すると、憎まれ口をたたいたりしてたんだ。こうなっちゃ、いじめようもないね。がっかりですね。私しゃ疲れた。




どうです、茶でも飲みませんか」




私たちは病室を出て、地階にある喫茶店に行った。




病院の味気ないコーヒーを飲みながら、私たちは情報交換を始めた。




私はいった。「…宮本は、自分のマンションを借金で失ったようですね。それで失望して自棄になったんですかね」




「ああ、親のマンションですよ、あれは。あれはこいつの父さんが、うちの会社の親会社に建てさせたんだ。こいつの父さんは立派な人だったらしいですよ」




「親が亡くなって、相続したマンションを抵当に入れて、湘南銀行から借金したそうですね」






・・・・つづく



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