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テレフォンライン  作者: 新庄知慧
80/116

80 腐りかけたキャベツ

「どうだ。その後、何か進展はあるか」




「まだ内田は目覚めたばかりさ。すぐに親が駆けつけてきた。アリバイはないね。ついさっきから、取り調べが始まってる。結果のあらましは、夕刊に出るだろう」




「それで、現場検証の結果は、きのう話してたように、やっぱり内田の殺人を裏付けないのか」




「はっきりとはわからんがな。多分、そうだよ、きっと。傷害罪どまりだ。おまえ、いつも殺人犯人志願者ばかりつれてこないで、真犯人を連れてきたらどうなんだ」




「俺が犯人を連れて行く前に、そっちで犯人を見つけたらどうなんだ」




大田は無言で電話をきった。




私はコーヒーを飲んでしばらく事務所で考えた。山手情報商会の資料を見直した。もう一度、資料を1枚1枚、丹念に読み返した。




私の目に止まるものがあった。




私は口笛をふき、軽く指を鳴らした。




急に立ち上がり、オフィスのドアの表に「出張中」とカードを出して、ドアの鍵を閉めて、ガレージへと駆け下りていった。




・・・・






愛生病院は、ヨコハマでかつて危険な街と称されていた黄金町の真ん中にあった。




この街には20年ほど前には、日雇いの港湾労働者や、職にあぶれた浮浪者がうろつき、白人や黒人の米兵が通うバーがあり、




ストリップ劇場の裏では、麻薬の取引きなども行われていた。犯罪の匂いのする、あまり治安の良くない場所だった。




今では再開発されて、普通の街の顔をしていたが、最近の不況の影響で、あまり良くない目付きをした男たちが歩きまわる傾向にあり、




風俗営業店もバブル景気の頃とはまた違った活況を呈していた。




外国人労働者も増えて、何人だか分からない男が黒服を着て客引きをしたりしていた。




この街が犯罪の匂いに満ちていた頃から愛生病院はここに建っていた。




アル中患者や、港湾作業で負傷した労働者などが、入院患者の大半を占めていた。煤けた暗い灰色のコンクリートのビルディングで、5階建てだった。




宮本は6つベッドのある大部屋にいた。




私が病室を訪れたとき、宮本は口を開けて眠りこけていた。劇団の稽古場で見た写真とは、まるで別人に見えた。




かろうじて顔の輪郭は保たれていたが、病的に醜く膨らんでおり、顎には肉がつき過ぎて2重になり、だらしなく垂れていた。




全体に紫色をしていた。腐りかけたキャベツを思わせた。閉じられた目には脂が沢山ついていた。




口は半ば開けられていて、唾液が流れ出しそうだった。




「面会の方ですか」




私の後ろで女性の声がした。振り向くと、きつい目をした看護師が立っていた。




いつも何かに腹をたてていなければ気がすまないような顔をした、身長160センチほどのナースだった。もう1年で確実に婚期を逸すると、自他ともに認めているに違いない、と私は思った。




「親戚の方?」看護師はじろじろと私を見た。




「友人です」私はぼそりといった。






・・・・つづく



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