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テレフォンライン  作者: 新庄知慧
75/116

75 弱虫だって勇気を持てる

「君の高校時代、河合はまだ篠原という性だったろう。事情は知らないが、実の父親の性を名乗っていた。大学受験のためか、あるいは就職の都合で、そのときまで、親は姓を変えるのを控えたのかもしれない」




「あいつの親父が、マユミの親父?そんな、馬鹿な…」




「違うのか?」




内田はまた黙りこくった。私はいった。




「君の言うことを信じるなら、君は、篠原の娘を殺し、その兄までも殺したことになる。なぜ、そんなことをしなければならない?




全部、嘘だろう?マユミは、君が愛していた子だろう?死んだ河合は、君は、親友だったと、さっき、いったじゃないか。




内田君、何に脅えてるんだ。なぜ、君はそんな嘘をついて、ピエロみたいな真似をしなければならないんだ」




「…」




内田は黙ったままだ。




「君は、誰かのために、罪をかぶろうとしている。甚だまずいやりかたで、誰にも信じてもらえないようなやり方で。しかし君は真剣だ。




しかし悪いが、僕に言わせれば、さっきもいったように、滑稽そのものだ。どうして黙っている?勇気を出すんだ。




君はいじめに会ってきたという。いじめをする奴なんて、断じて許せない。しかし、いじめられる奴も、勇気をもって、戦わなければいけない。




僕は応援する。僕は弱虫だよ。でも、少しづつがんばれば、弱虫だって、勇気を持てると、この歳になって思っている」




妙に熱っぽく語ってしまったところへ、オーダーしたものが運ばれてきた。




ウエイターは眠そうな顔をして、サンドウィッチののった皿とコーヒーカップを運び、きわめて機械的に礼をして、去っていった。




私はコーヒーを啜り、失礼、腹が減ってしまってね、といって、サンドウィッチを食べた。




内田は茫然とした表情だったが、何かを考えるような顔になり、コーヒーに手を出した。私は食べおわり、コーヒーを飲みながらタバコを吸った。そして、内田に声をかけた。




「少しは落着いたかい?」




内田は私の目を見た。そしていった。




「河合がマユミの兄さんだったなんて、本当に知らなかった。全く、本当に。確かにあいつの親が離婚してて、でも永らく前の親の名前で通してたことは知っていた。でも、それがまさか、マユミの父親だったなんて…」




私は黙って内田の言葉を聞いた。内田はさらに話した。




「今日、僕は、河合を殺した。あのホテルの裏手でだ。近くの工事現場に落ちていた鉄パイプで、あいつの頭をなぐったんだ。




あいつは、親友だったが、やはり僕を裏切った。だから許せなかった。だから殺した。僕は悪魔だ。




あんたにメールしたのは、もしかしたら、こんなことになる前に、あんたか、誰かが現われて、悪魔の僕を止めてくれるかも知れないと期待したからだった。




僕は恐かったんだ。でも、親友の裏切りは、やっぱり許せなかった」




私は無表情にいった。




「河合も、君の内的な世界を理解せず、それを笑い飛ばすか何かして、君を怒らせたというわけか」




・・・・・つづく



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