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テレフォンライン  作者: 新庄知慧
73/116

73 殺されました

走り出してすぐ、歩道の暗がりを歩く人の姿が目に止まった。暗がりの中を、さまようようにして歩いていた。




その人影とすれ違って少し行ったところで私は急ブレーキを踏み、車をバックさせた。




内田だ。




私は内田を前面からとらえられる位置まで車をバックさせて、車を止め、ドアを開けて身を乗り出した。




内田はやつれた表情で彼を見た。全く生気を失って、私の顔を見ても、それが誰なのか暫くは分からないようだった。




水色のシャツと白いズボンとが真新しく、蒼白い手が車のライトの中にいやに光って見えた。




手には何ももっていなかった。もちろん、血糊など付いていない。




私は声をかけた。




「やあ。こんなところで何をしてるんだ。水族館はもう、やってないだろう?」




内田は暫く沈黙したままだったが、やがて、ぽつりと口を開いた。




「乗せてくれるんですか?」




「ああ」




「読みましたか。僕のメール」




「メール?ああ、もちろん。それで、殺人予告の場に向かうところだ。殺人は、まだ行われてないのかね」




「はあ」内田は、あいまいな返事をして、目を細めた。




「まぶしいな。疲れた」




内田はよろよろと私の車に近寄り、勝手にドアを開けて乗り込んだ。そして、少し座りたいんだ、といった。




「河合というのは誰だ?」




「河合?…」




内田は放心した様子で、私の言葉を繰り返した。




かわい、かわい…。三回、同じ言葉をいい、そして、いった。




「僕の親友です」




「河合を救ってやれないって?そして彼が殺される。どういうことなんだ」




「河合は、とても傷ついたんです。僕は、悪魔だ。僕が河合を傷つけた。そして、救ってやれなかった」




「河合は、無事か?」




「無事だと良かった」




「無事じゃないのか?」




「ええ」そういって、内田の言葉は途切れた。それから、弱々しく、いった。




「殺されました」




「どうしてだ」




それには答えず、内田は、また、「殺されました」と繰り返した。そして目を閉じた。




道路を車が一台、通り過ぎた。




民家もビルもない、丘の切り通しを走る、淋しい道だった。




崖の草叢から、コオロギの鳴く声が聞こえていた。






・・・・つづく



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