72 第二の殺人
男は答えた。
「今日は、さすがに防戦準備をしてるだろう。机の影に隠れて、ときどき顔を出しながら話してるな。みじめだね。手には何か持ってるかい?」
「帰れ!」私はどなった。
電話のベルが鳴った。
1回、2回、3回…。電話をとろうとすれば、ドアの向うからの射撃の的に入る。目茶苦茶にでも乱射されれば、当たらないとも限らない。
「おい、電話だよ。どうしたんだ、出ないのか。大事なお客さんかもしれないぞ。どうしたんですか、探偵さん。マユミの死の真相がわかるかもしれないですよ」
電話のベルは鳴り続けた。
「大丈夫だ。ほら、それじゃあ両手をあげよう」
ドアの向うのシルエットは両手を上げて見せた。
「これでも駄目か?じゃあ、僕は帰る。気分は上々だよ。ははは」
男のシルエットが曇りガラスから消えてなくなり、廊下を走り去ってゆく靴音がした。
私は少し迷ったが、やはり電話をとった。受話器にかじりついた。大田だった。
「なんだ、出るのが遅いぞ。人を働かせといて失礼だぞ」
「すまん。取り込み中だったんだ」
「トイレにでも行ってたのか」
「まあ、そんなところだ。それで、河合はいたか」
「部屋にはいなかったが、ホテルの裏庭にいたよ」
「無事か?」
「無事じゃない。茂みに隠れて、芝生の上に倒れて、こときれてた。まだ死後硬直は始まってないようだがな」
私は言葉を失った。
「死因は、頭部への強打だ。ハンマーか何かだろう。すごい強打だ。まるでスイカ割りのスイカだよ、これじゃあ。ひでえことをしやがる」
私はいった。「…これでまた、親子の会話がパーか」
大田は意外にあっさりと答えた。
「おかげさまでね。とりあえず、通報者への報告は終わりだ」
電話は切れた。
私は銃を手にしてドアに向かい、それを開けて廊下を見た。暗緑色の床と白い壁が見えるだけで、男の姿は無かった。
私は銃を持ち、廊下へ踊り出て、駆け出した。一目散にガレージへの階段を駆け下りた。男の姿はどこにも見えなかった。
そのまま私は自分の車に乗り、河合の殺人現場へと直行した。
・・・・・
ハーバーホテルへと向かう道の交差点にさしかかったとき、後ろの方からサイレンの音がぐんぐん近づいてきた。
私の車は交差点の赤信号で止まった。
信号待ちをしていると、サイレンが耳障りに大きく鳴りながら近づき、パトロール・カーが3台、あわただしく私の車を追い越していった。
それをやり過ごした直後、信号はまだ赤だったが、私は車をスタートさせた。
・・・つづく