71 しつこいな
「そうか」
「わかったか?」
「わかった」
「なら、早く、車を飛ばせ、ハーバーホテルだ。河合という名の男が、そこに泊ってるのは確かだ。
ガセかもしれないが、可能性が1パーセントでもあるなら、犯罪を未然に防ぐのが刑事の勤めだろう。
息子さんには、俺もいっしょにあやまってやる。おとうさんは立派な刑事だって、ほめてやるから車を飛ばせ」
「さっきから飛ばしてるよ。もう到着だ・・・。ほら、着いたぞ。」
一瞬の間があって、大田は憎らしげにいった。
「くれぐれもいっとくがな、一般人は、運転しながら、携帯電話で話すなよ。交通事故につながる。
俺みたいなプロなみのドライバーのマネをしちゃいけない。
夜の一般道を時速100キロも出して、ぶっ飛ばしながら携帯電話で事情聴取するなんてことは、俺みたいな刑事にしか許されないことだ。
ロサンゼルスのカー・チェイスじゃあるまいし。ここはヨコハマだぞ。では、行ってくる」
電話が切れた。
私は溜息をつき、それから白けた気持ちになり、タバコをもう一本吹かした。
そのとき、ドアをノックする音がした。
ノックは強く3回だった。曇りガラスの向うに背の高い男の影が映っていた。
私はしばらくだまっていた。拳銃を手にとり、デスクを盾にして身構えた。そして口を開いた。
「はい?」
ドアの鍵は閉まっていた。ドアに近づくのは危険だと思われた。ドアの向うの男がいった。
「開けてください」
ドアの向うの男は、部屋の中にみなぎる殺気に勘づいたように思えた。
私はいった。
「どちらさん?」
「私ですよ」
そういって、男の影は少し笑った。
「また、おじゃましました。お願いがあってきたんですよ」
「また例の件かい?あなたも、しつこいね」
「あなたこそ、頑固だな。どうして真紀子から手を引こうとしないんだ」
「また繰り返しだな。真紀子さんの娘の死の真相がわかるまで、僕は手をひかない」
「まだ真相がわからないのか」
「申し訳ないが、そうだ」
「とんまな探偵だ」
男の影はいって、笑った。そして、口調を変えていった。
「人を殺すのは、気持ちいいもんだ。やめられないもんだ。今日は気分がいい。のってるんだ」
そして、また笑った。
私はいった。
「帰れよ。おまえには用はないよ」
・・・・つづく




